2008年4月10日木曜日

◎今更ながらの2.5GHz周波数獲得を巡る各社の本音

 新たな無線通信技術として、2009年からの商用化が予定されているモバイルWiMAX。KDDIを中心として設立されたUQコミュニケーションズが事業展開を目指している。

 今更ながらだが、2.5GHz帯を巡る参入プレーヤー各社の動きから、本当にモバイルWiMAXで同周波数帯を欲しかったのかという印象を縫いきれずにいる。もっと言うと、本当に2.5GHz帯が欲しかったのだろうかということだ。

 周波数の獲得は、無線事業を手がけるプレーヤーにとっては、まさに死活問題である。しかし、今回の2.5GHz帯という周波数帯は決して使いやすいものではないはずだ。

 ましてや、これから携帯各社が3.9Gへと進化していくなかで、1からインフラを構築していって、対抗できるのか。もしかしたら第二のPHSのようになりやしないか。そんな懸念は持ったはずである。つまり、積極的に欲しいと思ったプレーヤーは一部で、その多くは他社に取られるくらいなら、もしくはその次の周波数帯を得るために今回は取りに行く振りをして、総務省に恩を売るという狙いもあったのはないかと推測する。

 特に2.5GHz帯の無線ブロードバンドでは、MVNOが義務化され、周波数を取得したところで、優位性が十分に担保されているわけではない。むしろ、インフラ構築費用などを考えると、投資戦略の分散化という事態も予想される。

 そういえば、PHSサービスも開始当初は、水平分離型の事業を目指していたが、携帯との激しい競争に巻き込まれ、いつしか同質化していった歴史がある。果たして、2.5GHz帯の獲得が吉とでるのか、その行方を注視していきたい。 

2008年3月31日月曜日

◎KDDIの「LTE」方式選択の報道

 今日の一部報道で、KDDIが従来より展開しているCDMA2000のインフラから、次世代方式ではW-CDMA陣営のLTEへと切り替える方針との情報が流れた。

 これは以前より複数の関係者から聞かれていたことでもあり、事実がどうかは別にして、仮にLTEへと切り替えたとしても驚きに値しない。むしろ、以前のコラムでも書かせていただいた通り、今後の競争環境、制度上の観点から考えれば、十分に有り得る選択肢だからだ。

 折りしも、昨日弊社では「モバイルキャリアの戦略分析<KDDI編>」を発刊させたいただいたが、同社の今の状況を一言で表せば、端境期を迎えているという印象を持っている。

 具体的には、今回報道されたのようなインフラもそうだが、収益モデル、プラットフォームなどあらゆる面において、新たな通信キャリア像へ向かう「リ・スタート」の時期という意味だ。

 いち早く3Gサービスを開始し、データ通信料金を定額化。そのネットワーク上で着うた、着うたフルといったキラーコンテンツ、斬新なデザイン端末など、コンテンツ、プラットフォーム、端末レイヤーをバランスよくハンドリングすることで、先進的なブランドイメージをリードしてきた。それが、3G時代においてドコモと伍して戦えたKDDIの『強さ』の源泉だった。

 しかし、その一方でクアルコムを中心とした効率的なフラミンゴ打法は、世界的なW-CDMA陣営の拡大と、CDMA陣営のマイノリティ化という市場構図のなかでは、いつでも梯子が外れてしまう(=折れてしまう)という危険性をあわせ持っている。 特に今となっては、それだけに寄るのはリスクが大きい。

 KDDIがいずれの方式を選択するのか注目されるが、その如何に関わらず、今後の世界の通信方式の流れには大きな影響は及ぼすことはないだろう。しかし、国内の市場にとっては、非常に大きなターニングポイントとなることは間違いない。

2008年3月18日火曜日

◎ドコモ&富士通がソフトバンク&東芝に端末差し止めの仮処分申請

 ドコモと富士通が、携帯電話機「かんたん携帯SoftBank 821T」の製造・販売などの差し止めを求め,東京地方裁判所にソフトバンクモバイルと東芝を訴えた。

 821Tは3つのショートカットキーや十字キーの形などがドコモの「らくらくホン」と極めて類似しており、不正競争防止法に違反していると主張している。

 「らくらくホン」シリーズは、2001年9月の最初のモデルの投入以来、累計で1,200万台販売したロングセラー商品で、富士通のシェア拡大に貢献してきた。

 まさに虎の子とも言える端末だけに、他社の端末やサービスに追随することが一般化している携帯市場にあって、今回の措置は極めて異例と捉えることができる。

 ドコモとしても、飽和感が加速する市場にあって中高年市場は数少ない有望市場であり、攻勢を強めるソフトバンクモバイルを牽制しておきたいといういった狙いもあると推測される。

 一方、今回のケースでは富士通はドコモのみにしか端末を供給していないが、マルチキャリアで供給している端末ベンダーには、今後どういった影響があるのか、それともないのか気になる。

 携帯キャリアとしては、自社にオリジナルな端末を用意したいというのが本音だろうが、現在の端末供給関係を見ていると、端末ベンダーは横展開しなければペイしないという状況にある。

 2G時代は、外販許可制度というのがあり、コア技術を持つ携帯キャリアが最優先で最新端末を市場に投入し、他の携帯キャリアは半年後でないと扱えないといったことがあった。

 その頃と比較すると、随分自由になったという感もあるが、パイが限られているだけに、違った意味で窮屈なのかも知れない。

2008年3月17日月曜日

◎モバイル市場における広告モデルの潮流

 Googleとのドッキングによって、広告収入がモバイルキャリアの新たな収益源として注目されている。個人的には、ソフトバンクの携帯参入が、ライバルのGoogle詣でを加速させた側面が大きかったと思っているのだが、結果としてドコモ、KDDIはポータルにGoogleを移植し、検索連動型広告など新たな収益を得ている。

 こうした広告収入拡大の流れは、当然だが通信トラフィックにキャップがはめられる状況にあって、これ以上同サービスだけでは収益を上げにくいということの裏返しでもある。

 複数のメディアによると、ドコモは3月下旬から公式サイトのメニューリストに「企業サイト」を設けるとしている。従来よりかたくなに拒んできた公式サイトのPR活動解禁の流れである。KDDIの家族間定額通話に触発されて、同様の措置を取る一方で、iモード利用料を値上げし、減収分をカバーしようとするなど、競争力維持を最優先に減収を最小限にしようとする同社の苦心が垣間見える。

 広告収入の動きが今後ますます本格化していくれば、新たな収益モデルの登場も予感させる。例えば、英国でMVNO事業者として昨年9月にサービスを開始したBlykは、加入者を16~24歳に限定し、広告(毎日6通程度)と引き換えに毎月SMS217通、通話42分を無料で利用できるプランを導入している。

 日本でも以前にツーカーが、通話前に広告メッセージを聞くことで、一定時間の通話が無料になるというサービスがあったが、ターゲットが限定されていること、そして音声ではなく広告メッセージであることが大きな違いだ。

 こうしたエッジの効いた広告モデルは、2台目需要が本格化してきている日本市場でも、アレンジすれば十分に契約者を獲得できる戦略なのではないだろうか。

2008年3月13日木曜日

◎次世代インフラを巡る『乱』の可能性

今月下旬に無線ブロードバンドサービスを予定しているUQコミュニケーションズ、ウィルコムがMVNOの説明会を開催する旨、発表された。そのことに、『新鮮さ』を感じた。

 これまでの垂直統合型ビジネス一辺倒だったモバイル市場において、こうしたオープンな取り組みはなかったからだ。

 もっとも無線ブロードバンドサービスの提供にあたっては、総務省から市場活性化の観点からMVNOを積極的に取り入れることが条件であったため、当たり前といえばその通りだ。

 水平分離型となる無線ブロードバンドサービスが日本でどのようなポジションを獲得できるのか。興味は尽きないが、一方で携帯電話の方でも次世代(3.9G)の取り組みもはじまっており、その具体的な姿が今年中には明らかになりそうだ。

 エスカレータ式に考えれば、各社とも既存のインフラ技術をベースにアップデートしていくというカタチになるのかと思いきや、複数の関係者の話によると「コト」はそう単純ではないようだ。

 次世代インフラ技術は、それぞれの会社の事業基盤の根幹をなすもので、競争力に直結する。敵は他社の携帯電話だけではない。将来的には、無線ブロードバンドとも競合することになる。

 今年、次世代インフラ技術でどのような動きがあるか、各社の10年先までの競争力を予測する上でも大いに注目したい。

2008年3月11日火曜日

◎携帯キャリアのパワーを弱体化させるチキンレースの先

 車のエンジンをかけて断崖絶壁へ向けて思いっきりアクセルを踏み込む。どちらがブレーキをかけるのを我慢できるか。今のケータイ市場は、まさに『チキンレース』と呼ぶに相応しい状況だ。

 競争激化で料金はどんどん下がり、果たして通信トラフィックを生業としてきたテレコム産業が産業としてこれからも成り立っていくのか。既に一部の携帯キャリアのトラフィック収入は赤字となっており、そうなることは最初から分かっていながら突き進んでいることに言い知れぬ不安を憶える。

 もっとも海外の携帯キャリア、他の産業と比較すると、日本のテレコム産業は依然として高収益型といえるだろう。聞くところによると、新興国では先進国から中古の基地局をただ同然で輸入し、数千円/台の端末が流通、ARPU数百円でも収益をガッチリ確保しているという。

 全く逞しい限りだが、果たして日本では今回の音声定額競争でひと段落となるか、それとも更にエスカレートしていくのか。各社、それぞれ他社の出方を伺う神経戦となっている。

 一方、携帯キャリアのパワーが相対的に弱体化していくなか、これから端末ベンダーの逆襲が何かありそうな話も聞こえてくる。 コストが安価な海外端末ベンダーの採用、調達価格の引き下げ、調達量の削減など、もはや端末ベンダーの収入を保証する力を携帯キャリアは持ち合わせていないのだから、当然だろう。

 水面下では、着実に地殻変動が起きているようだ。

2008年3月10日月曜日

◎ソニー・エリクソン・モバイル事業見直し報道に見る国内端末市場の今後

 三洋電機、三菱電機に続きソニー・エリクソン・モバイルも国内端末事業の見直しを進めていることが明らかになった。現在、同社はドコモとKDDI(au)向けに端末を供給しているが、今後、国内端末事業はKDDI(au)向けのみに絞るというものである。

 市場の減速感が鮮明になるのを受け、国内端末ベンダーにとっては、いよいよ生存競争が加速しそうだ。世界第四位の端末シェアを持つソニー・エリクソン・モバイルの場合、世界市場では4位と好調で、2007年からは北米市場での攻略も本格化させ、2011年頃までにトップスリー入りを目指すなど、全体では好調を維持している。

 その点から推測するに、日本市場が世界の端末マーケットのなかでコスト負担が大きい割りに魅力が少なくなっている証左ではないかと勘ぐってしまう。尚、ソニー・エリクソン・モバイルの日本法人は世界で唯一CDMA端末を開発・供給している拠点である。もともとソニーの端末部隊をベースに編成されており、両社半々という海外とは、その性格を異にしている。

 MCAでは、現在10社前後いる国内端末ベンダーは、最終的には3-4社程度に集約されていくと予測している。

2008年3月7日金曜日

◎端境期を迎えたケータイ市場

 ちょうど2年ほど前になるが、あるグローバル端末ベンダーの担当者から連絡をもらい情報交換することになった。テーマは、「今後の日本の携帯電話端末市場について」だ。

 その方は、流暢な日本語で国内市場について綿密に分析し、最後にホワイトボードにグラフを描き、2-3年後に国内市場規模は減少傾向へと転じ、そのボリュームの約4分の1を海外端末ベンダーが占めると予測した。

 その時は、MNPもありにわかに信じがたかったが、携帯キャリアの2年縛りによる影響で市場には減速感が、そして国内端末ベンダーの相次ぐ撤退という事態が起きている。三洋電機、三菱電機撤退のニュースは、国内の端末の進化について語る際に欠くことのできない企業として活躍してきただけに誠に残念だ。

 ケータイ市場は、これまでの高機能化競争から料金競争へと突入し、各社消耗戦の様相を見せている。2年縛りを優先させた結果、顧客の流動性は減速し、端末の買い替えスピードも落ちた。各社の収益減への圧力は強まっているが、その一方で高機能化へのニーズは依然として高く、それが更にケータイキャリア自身の首を絞めている。

 市場におけるケータイキャリアの存在感が弱まれば、それに代わるプレーヤーが出てきそうなものだが、その先駆者が誰なのか、まだ視界不良の状態だ。

 現時点でいえる事。それはインフラ、端末、プラットフォーム、コンテンツという全てのレイヤーでケータイ市場が端境期を迎えているということではないだろうか。

2008年3月1日土曜日

◎ケータイ市場の『影』についてのメディア論調

 天王山である2008年春商戦へ向け、ケータイ会社の料金競争はヒートアップする一方だ。ソフトバンクの攻勢とイーモバイルの音声参入に、KDDIとドコモが応戦するという構図が続いている。

 主戦場は、音声定額サービス。これまで、ウィルコムとソフトバンクモバイルのみだった自社内無料通話をKDDIとドコモも家族内、社員間という制限付きながら提供に踏み切った。

 それぞれ市場の3割、5割の母数を抱えるという点で、2割弱しかないソフトバンクモバイルとは影響のレベルが大きく異なる。もしかしたら、本当に通信がパンクするという事態がやってくるのではと思ってしまう。

 一方、視点をメディアの論調へと移すと、激しい純増競争が消耗戦を誘発させていることは既に各紙で述べられている通りである。こうした状況下において、一部メディアからは、あの会社が加入者を増やす手法はよくないとか、おかしいといったコメントが目立つ。

 しかし、個人的にはそんな性善説に立って書いていること自体に、妙な違和感を覚えてしまう。そもそもケータイは、古くはNCC系携帯会社の1台10万円のインセンティブを投下や、特定代理店がNCC市場の3割以上を占有するなどの歪み(影)を内包しながら急成長を遂げてきた市場なのだ。

 仮にケータイ市場が健全なら、業界に影響力を持つメディアが誕生していただろうし、 業界側もいわゆる専門誌と言われるメディアを育てようとしてきたはずである。果たしてケータイ市場について健全性という立場から論じることができ、かつ影響力のあるメディアがあるのだろうか?

 更に付け加えるなら、世界の最先端と言われる日本のケータイ市場が孤島というガラパゴス状態に陥らず、日本の端末ベンダーが世界で活躍することも夢ではなかったはずだ。

 誰もがおかしいと思いながら、しかし市場拡大を前に誰もブレーキをかけることができず、そして今にいたっている。別に影を受容しろと言っている訳ではないが、誠に請謁ながら今更ながらにあまりにもナイーブすぎる気がしないでもない。

2008年1月15日火曜日

◎効率的なインフラ投資一考

 2008年に入り、携帯市場の勢力図が大きく変わろうとしている。従来、一人勝ちでシェア拡大を続けていたKDDIに急ブレーキがかかる一方で、ソフトバンクモバイルが躍進。防戦一方だったドコモは、新端末と新料金プランで復調傾向が見られる。

 MNPという顧客流動化の流れは、各社の2年契約という縛りの影響で、今後も有効に作用するのか注視していく必要があるが、今日の報道によるとソフトバンクが携帯ー固定間の通話無料サービスを開始するという。ソフトバンクモバイルの携帯電話とBBフォンの間に限定されるものの、今後は携帯と固定を跨いだ競争へと舞台が移っていきそうな気配である。

 各社のインフラネットワークは更なる高速化へと向かい、2008年以降は次世代投資も本格化してくものと考えられる。しかし、これまでもそうだったように、こうしたインフラ投資の目的は、全国あまねく携帯電話を使えるようにすることにあるが、他にもデータ通信サービスの高速・大容量化にある。つまり、ARPUで言うところのデータARPUの強化だ。しかし、データARPUは、各社ともARPU全体の約2割程度しかなく、見方によってはそのためだけに、毎年数千億円の設備投資が行われているという捉え方もできる。これは一例だが、ドコモのFOMAの設備投資は、開業から数えて約2兆円に上っている。

 たった2割のために毎年、大規模な接尾投資をやっているのか、という気がしないでもないが、それについては関係者の間でも様々な議論があることだろう。むしろ、そうした観点から考えると、ソフトバンクモバイルの音声定額「ホワイトプラン」は、効率的に設備投資を活用しているなあと思ってしまうのは私だけだろうか。