2011年3月10日木曜日

Column:基地局数&周波数帯で問われる携帯キャリアの競争力

 現在、弊社では「携帯電話基地局市場の現状と将来予測2011」という調査レポートの発刊へ向け、各方面へ取材を行っているところだが、そのなかで、最も不透明なのがソフトバンクモバイルのインフラ戦略である。

 主力バンドである2GHzに加え、最近サービスを開始したDC-HSDPAの「ULTRA SPEED」は1.5GHzで、そして将来的には700/900MHz帯の獲得とウィルコムの次世代XGP(TD-LTE)の活用も含めてなど、その姿が見えにくい。

 当面の注目点は、2010年3月末現在で約6万だった基地局数を2011年度3月末までに12万(いずれも屋内基地局を含む)に倍増するとした「電波改善宣言」の進捗だろう。2010年度3Qの決算発表では、3月末には12万局、9月末には14万局になるとしているが、そのうちレピーターが含まれるのか、フェムトはどうなのかなど、これまた定義が今ひとつはっきりしない。
 
 但し、これまで10年弱かけて6万局しか設置していなかった基地局を、たったの1年で2倍にしようというのだから並みの努力では実現できないことだけは確かだ。かつて、ソフトバンクはボーダフォン買収時に弱点だった基地局問題を一気に片付けるとして、「B4P」というプロジェクトを立ち上げ、リバースオークションという呼ばれるコストダウン手法を導入したものの、結果は内部的にも外部的にも決して満足のいくものではなかった。

 そして、今回は12万局達成の隠しタマとして、ウィルコムの基地局ロケーションを活用するとしているが、その多くはコン柱である。理論的には、基地局設置のなかで最も手間と時間のかかる置局交渉が必要ないという点で「なるほど」と思う。しかしその一方で、当然だがPHSと携帯電話では出力やカバーエリアも異なり、更には携帯電話には「干渉」問題も付きまとう。この短期間で、数をこなしながら電波が最適に吹くよう綿密なエリア設計がなされているのだろうか。

 そうした懸念から、果たして総務省に届けられている基地局数から素直にドコモやKDDIと同じようにエリア品質やエリア整備が進んでいる考えていいのかという疑問も沸く。少なくとも、現時点で発表されている基地局数にあるように、KDDIよりSBMのエリア品質が優れているようには感じられない。

 むしろ、その原因を別のところに求めるなら、利用している周波数の違いも大きいような気がする。800MHzがメインのKDDI,2GHzがメインながらもルーラルでは800MHzを活用し、効率的なエリア展開を行っているドコモ。それに対してSBMには、800MHzがない。

 MCAでは、携帯キャリアの競争戦略における根本的なポイントの一つは、使用している周波数帯幅と周波数帯にあると考えている。中身は別に、数的には3社がイーブンへ近づく中、改めて使用する周波数帯の意味が問われてきそうだ。
 
 SBMのインフラ戦略について、今回の調査レポートでは、いくつかのシナリオを提示し分析していきたいと考えている。

2011年3月3日木曜日

Reserch Note:水面下で進む?iPhoneの国内マルチキャリア化へ向けた条件整備

 このところ複数の訪問先で、iPhoneのドコモやKDDI導入の可能性について、意見を求められる機会があった。

 国によって状況は異なるが、こまでiPhoneが1社にしか導入されていなかった代表的な国として、米国(AT&Tワイヤレス)、韓国(KT)、そして日本(ソフトバンクモバイル)があった。

 しかし、周知のように最近、米国と韓国では1社体制は崩れ、更にはアップル自身が米国でベライゾン・ワイヤレスがCDMA2000版iPhoneの発表の際に、「これで1社独占契約の国はなくなった」と明言したのである。

 また、最近のソフトバンクの決算発表の席でも、孫社長がアップルとは独占契約ではないとコメントしていることからも、ドコモやKDDIといったライバル会社からiPhoneが発売されても、契約上は何ら不思議はないということになる。

 むしろ、国内でアンドロイド旋風が本格化する2011年度以降、スマートフォン市場においてiPhoneのポジションが相対的に影響を受けることは容易に想像できる。アップルとしては、勢いがあるとは言えシェア3位の携帯会社のみの供給体制でいいのかということは、当然のことながら考えるだろう。

 一方、ドコモやKDDIにとってもiPhoneという存在は、ソフトバンクへの対抗上からも、依然として喉から手が出るほど欲しい『タマ』だろう。

 両社は、このところスマートフォン化へと大きく舵を切っているが、共通しているのは、グローバル端末の採用へ向けて動き始めている点である。

 背景には、アンドロイドOSという世界標準のプラットフォームが普及するなかで、世界中の端末ベンダーがスマートフォンを容易に開発できるようになったこと。そして、もう一つは携帯会社サイドで、これまで国際標準に対応していなかった周波数再編(新800MHz)が進み、容易にそうした端末を調達しやすくなったことが挙げられる。

 国内におけるiPhoneのマルチキャリア化へ向けた条件整備が着実に進んでいることだけは間違いない。

◇関連情報
Column:米国ベライゾンによる「CDMA2000版iPhone 4」投入 (2011年1月13日木曜日)
http://mca-mobilenewsletter.blogspot.com/2011/01/columniphone.html

Column:スマートフォンによって変容するモバイル市場の構図 (2010年11月23日火曜日)
http://mca-mobilenewsletter.blogspot.com/2010/11/column_23.html

2011年3月1日火曜日

Column:強者間の『同質化』から『差別化』の戦いへと移行しつつある携帯市場

1.KDDIによるWiMAXスマホ&テザリング

 市場の成熟化は、弱者の撤退と強者同士の同質化の戦いが本格化するが、次のステージは『強者間の差別化の戦い』になるのかも知れない。

 昨日、KDDIはモバイルWiMAXに対応したスマートフォンの「htc EVO WiMAX ISW11HT」を4月上旬より発売することを明らかにした。

 携帯とモバイルWiMAXがハイブリッド化され使えるようっており、料金は5,985円/月(525円/月の+WiMAX利用料は8月までは無料)。更には「htc EVO WiMAX ISW11HT」をポータブルルーターとして利用し、ほかの通信機器からネット接続できる テザリングの『解禁』にも踏み切ったことは、個人的には前回のスカイプ以上に市場へのインパクトは大きいのはないかと推察する。

 テザリングは、利用者にとっては、1つの機器で複数の端末を接続できるとあって利便性の高いサービスだが、国内ではこれまで通信トラフィックへの影響を懸念し、特に大手は二の足を踏んでいたサービスだ。

 弊社では、昨年の時点で2011年の携帯サービスの注目サービスとして、テザリングを取り上げていた。

 KDDIは2011年度の端末戦略に関して、全体の半数以上をスマートフォンとして発表する予定で、国内向けのサービスに対応したWiMAX対応スマートフォンについても今後は検討していくとしている。

2.通信技術の差別化により疑問視されるSIM解除の効果

 堅牢な3Gネットワークを擁するドコモに対抗するカタチで、ソフトバンクによる「TD-LTE」、そして今回のKDDIによる「モバイルWiMAX」一体化の動きは、今後の各社の戦いが「差別化」という流れのなかで行われるのではないかと予感させる。

 これまで携帯各社は、方式やバージョンの違いこそあれ、同じ携帯電話という通信技術の上のレイヤーで差別化を一生懸命やってきたのだ。つまり、通信技術というレイヤーに限れば、同質だった。

 しかし、これからは違う。それぞれが生きていく土俵を自らでつくり、そこで戦っていこうとしているように見える。

 そして、そのことはある意味、市場活性化という大儀のために半ば強制的に総務省が推し進めてきたSIM解除が、各社が競争戦略の観点から独自の通信技術を取り入れていくなかで果たして機能するのかという疑問を持ってしまう。

 異なる通信技術を採用している状況下で、携帯キャリア間で問題なくSIMフリーが機能するには、それぞれの技術に対応するための莫大なコストがかかってしまうだろう。

 MNPしかり、周波数の割り当てもそうだが、どうも官主導には色々問題があるように思えてしまうのは私だけだろうか。 

 
Reserch Note:SIM解除がもたらす新たな競争サービス (2010年11月30日)
http://mca-mobilenewsletter.blogspot.com/2010/11/reserch-notesim.html