2013年11月26日火曜日

iPhoneの『特異性』と『破壊力』

 最近の調査会社から発表されるスマートフォンのOS別マーケットシェアを見ると、世界全体ではAndroid躍進が鮮明になる一方で、日本市場ではiOS優勢の状況となっている。

 国内ではNTTドコモが新たにiPhoneの取り扱いを開始したことが影響し、2013年度Q3期ベースではスマートフォン出荷台数の半分程度を獲得したと見られている。iPhone寡占化の状況は、例えばITmediaが毎週発表している携帯販売ランキングからも見て取ることができる。

 アップルの2013年7~9月期決算によれば、世界の売上高の4分の1は日本と中国が占めており、なかでも日本ではNTTドコモによるiPhoneの取り扱い開始が貢献し4割増を記録した。サムスンの攻勢もあり、主力の米欧市場が停滞するなか、今や日本市場はアップルにとってホームグランドと化している。

 では、そもそも何故、日本市場だけはアップルが今だに制空権を持っていられるのか?最も分かりやすい理由としては、日本市場ではサムスンの勢力が弱いからである。

 海外では、高級路線から低価格まで幅広い端末ラインナップを取り揃えライバルを駆逐してきたサムスンだが、こと日本では決して成功しているとは言えない。今年の春は、NTTドコモからツートップ戦略の一角としてシェア拡大を狙ったものの、思うような成果を上げられていない。

 年に1機種しか新製品を発売しない端末ベンダーが幅を利かせていることが市場として健全なのかという疑問もあるのだが、先に述べているように出荷台数の半分程度がiPhoneだとすると、アップルから見れば全キャリアに端末を供給しているわけで、市場を完全にコントロール下に置いているように映る。

 実際、アップルの事情に明るい関係者によれば、アップルはモバイルキャリアの正確な在庫情報をリアルタイムに把握し、モバイルキャリアは代理店と化しているというコメントをよく耳にする。今は、三社横並びでiPhoneを取り扱い、各社が競ってインセンティブを投下し値段を下げることで端末が更に売れるという、まさにアップルにとっては自分の財布が傷むこともない理想のスパイラルなのではないだろうか。

 もっとも、iPhoneが売れている理由はそれだけで片付けることはできない。利用者のアンケート調査をやってみて一番驚かされるのは、iPhone利用者の満足度の高さだ。弊社で実施しているデータによれば、iPhone利用者の9割以上が「次もiPhone」と答えているのだ。

 iPhoneは、それほどの破壊力を持っていたからこそ、モバイルキャリア中心のエコサイクルを顧客ファーストへと転換させたし、たった1つの製品が市場や業界を変革することができたのである。その点で、そのパワーはiモードの比ではないことだけは明らかではないだろうか。

執筆:天野浩徳

2013年11月20日水曜日

パナソニック システムネットワークスの基地局事業の行方

 パナソニック モバイルコミュニケーションズ(PMC)が2013年4月1日に、パナソニック システムネットワークス(PSN)へ携帯電話基地局事業を移管した。基地局事業はPSN インフラシステム事業部内のネットワークビジネスユニットが担当する。

 PMCの基地局事業は2007年にノキア シーメンス ネットワークス(NSN、現ノキア ソリューションズ&ネットワークス)とNTTドコモ向けLTEネットワーク・インフラの提供で協業した。11月にはLTE/W-CDMA方式共用の2.1GHz帯向け光張出し無線装置の共同開発を開始している。

 2011年1月にNTTドコモの商用LTEサービスへLTE/W-CDMA方式共用光張出し無線装置が採用された。ただ、NSNによるLTE無線機の開発が遅れ、2010年12月のサービス開始時に間に合わせることができなかった。

 従来、PSNにおけるNTTドコモの3G無線機シェアはNECや富士通に並び、3強の位置を占めていた。しかし、関係各社から話を聞いていると、LTE無線機シェアではNECと富士通の2強体制に変わりつつあるようだ。LTE無線機の開発遅れや、NECと富士通に比べてPSN/NSNのLTE無線機は大型とされる点などの影響とみられる。

 シェアを落としているPSNであるが、2013年2月21日にはNSNとともに、NTTドコモのLTE-Advancedネットワーク・ベンダに選定されている。競合のNECや富士通も選定されており、3強に一角に踏みとどまることができた。そうした中、3月1日に発足したPSNへ基地局事業移管が行われた。関係各社はPMCが事業分離を行ったことにより、その後の事業譲渡がしやすくなったとの見方も多い。

 事業譲渡先として、第一候補となるのはPSNと最も関係の深いNSNであろう。しかし、NSNは現在、親会社のNokiaが仏Alcatel-Lucentのワイヤレス部門との提携ないし買収を検討しているとされる。Nokiaとしては、PSNよりも仏Alcatel-Lucentとの関係を強化させ、北米市場などで攻勢に出たい考えとみられる。

 次にSamsung ElectronicsやHuawei Technologiesも候補になるのではないだろうか。すでに両社とも国内の無線機市場に参入しているが、NSNやEricssonに比べてシェアは小規模である。PSNを買収してNTTドコモへの参入を図ることでシェアを拡大させ、グローバルでの宣伝効果も期待できる。

 最後にEricssonも可能性があるものとみている。すでにNTTドコモのLTE無線機市場に参入しているが、3G無線機に比べて大きな実績が残せていない。現在、ソフトバンクモバイルとイー・アクセス(イー・モバイル)に無線機、KDDI(au)にはIMSを供給しており、NTTドコモへの無線機供給を本格化させることで国内での地位は磐石となる。

執筆:大門太郎

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関連資料
携帯電話基地局市場及び周辺部材市場の現状と将来予測 2014年版

2013年11月7日木曜日

キャリア各社のLTEエリア展開について

 日経BPコンサルティングやMMD研究所、ICT総研などが「iPhone」におけるキャリア各社のLTEサービスの調査を実施している。各社の調査結果はまちまちであるが、都心部ではKDDI(au)やソフトバンクモバイルが強く、地方部ではNTTドコモが強いという印象を受ける。さらにNTTドコモのLTEサービスは実効速度が遅く、エリアも際立って広くないという結果もみられる。

 総じて、他キャリアよりも先行的にLTEサービスを開始していたNTTドコモが、必ずしもトップではないということが伺える。調査方法やエリア設定にバラツキがあり、一概に優劣を図ることができないため、今回はキャリア各社のLTEエリア展開などを考えてみたい。

プラチナバンドの800MHz帯をアピールするau
 KDDI(au)のLTEサービスは当初、iOS(iPhone 5)向けの2.1GHz帯、Android向けの800M/1.5GHz帯という位置付けになっていた。本来、KDDIはLTEサービスのメインバンドに800MHz帯を据えていたため、2.1GHz帯LTEが他キャリアに比べて弱い面がある。

 しかし、「iPhone 5s/5c」が800MHz帯LTEに対応したことにより、iOS(iPhone 5s/5c)向けLTEサービスもエリアが強化された。すでにKDDI(au)の800MHz帯LTEはAndroidユーザに好評を得ており、それがiOS(iPhone 5s/5c)向けでも利用できるのは朗報といえる。

SBグループは利用可能な帯域幅が少ないものの好成績
 ソフトバンクモバイルは2.1GHz帯でのみLTEサービスを展開し、グループ会社であるイー・アクセス(イー・モバイル)の1.7GHz帯LTEで補完する形になっている。現時点で他キャリアに比べ、LTEサービスへの割当可能な帯域幅が少ないが、調査結果では好成績を獲得し、ポイントを絞ったLTEエリア展開が奏功しているものとみられる。

 しかし、今後も帯域幅の急拡大が見込めず、利用可能な周波数帯に関しては苦しい戦いが続く。

 余談になるが、私はソフトバンクモバイルの3Gスマートフォンを利用している。通勤時の中央線、総武線では現在も通信が途切れることが多く、正直、ソフトバンクモバイルのLTEエリアやスピードテストの結果には驚きを隠せない。現在もLTEサービスなどには対応していないため、次回機種変更時の「Hybrid 4G LTE」対応には非常に期待している。

2014年春に他キャリアを凌ぐLTEネットワークを提供するドコモ
 最後にNTTドコモに関して、これまでは徐々にLTEエリア展開を図り、年度ごとに一定の基地局を置局していくイメージであった。しかし、KDDI(au)とソフトバンクモバイルのLTEエリア展開は開始初年度に一気に構築するロケットスタートになった。

 この点が調査結果におけるNTTドコモの成績に大きく影響しているのではないだろうか。NTTドコモとしては、従来どおりのエリア展開計画でLTEサービスの提供を考えていたが、他キャリアの予想外に迅速なエリア拡大に遭遇してしまった感がある。

 その結果、高トラフィックエリアを中心にLTE展開してきたNTTドコモと、早期的な全国エリア化を図った他キャリアと差が出てしまった。実効速度に関しては、LTEユーザ数の多寡が大きく影響しているものと考えられ、国内で最もLTEユーザ数の多いNTTドコモは苦戦している。

 ただ、現状に対し、NTTドコモも足踏みしている訳ではなく、2013年度は当初計画を前倒ししてLTE基地局数を倍増させる。さらに高速化に関しても、1.7G/1.5GHz帯の運用を本格化させて速度向上を図る。2014年春には他キャリアを凌ぐLTEネットワークを提供する方針で、今後のNTTドコモの反撃に注目したい。

執筆:大門太郎

2013年11月5日火曜日

『iPhone』戦国時代の競争構図③ 歴史を振り返れば

 通信産業の競争戦略を論じる時に、どういったフレームワークがいいのだろうか。

 色々と研究しているが、なかなかピタッとくるものはない。特に、グローバルに技術やサービス、競争関係が目まぐるしく変化するモバイル分野については、その産業ポテンシャルの割りには関わっている研究者は少ないように感じる。

 固定、携帯電話を問わず、通信サービスという業態を考えるとき、生業としては水道や電気と似ている。

 しかし、先に述べたように、その変化のスピードが決定的に違う。その点で、ポジショニング理論などの静的アプローチに無理があることは明らかだろう。

 今回、3キャリアがiPhoneで横並びとなり、もともと差別化要素の少ない競争軸を打ち出すことが更に難しくなったように思える。

 マスコミ的には、サービス内容やネットワーク品質だという書き方をしていることが多いように見受けられるが、それが決定的な差別化要素になるとは考えにくい。

むしろ歴史を振り返れば、
・何故、ドコモはiモードで携帯市場を席巻できたのか
・何故、3G離陸の際にKDDIが一人勝ちしたのか
・そして、何故ソフトバンクは純増競争でリードを続けられているのか

 そこから得られるファクトを深く分析する時期のような気がする。きっとそこにヒントがあるはずた。

執筆:天野浩徳

<『iPhone』戦国時代の競争構図>
①ドコモ参戦につき
②変容する業界地図とその先に見えるもの
③歴史を振り返れば

2013年11月1日金曜日

携帯電話の基地局整備の在り方に関する研究会 第1回会合にて(トンネル編)

前回は携帯電話の基地局整備の在り方に関する研究会での不感地域解消の動向を追った。今回は高速道路や鉄道トンネルなどにおける電波遮へい対策事業の動向を追う。

前回の不感地域解消は国や都道府県、市町村、キャリアが行っていたが、高速道路や鉄道トンネルなどは国や鉄道事業者、一般社団法人などが担当する。トンネルなどの場合、キャリアが直接、関与しない代わりに、公益社団法人 移動通信基盤整備協会が大きく関与している。

その移動通信基盤整備協会は自主事業として、主な遮蔽空間のうち、地下駅や地下街、地下鉄等駅間、道路トンネルなど、補助事業としても道路や鉄道トンネルの不感対策を実施する。

2012年度のトンネル整備の現状として、高速道路は補助対象に対する利用可能トンネル数が631/635、対象率は99.4%、直轄道路が同400/439、対象率は91.1%となっている。整備が進んでいるものの、現在でも携帯電話サービスが利用できないトンネルなどは存在する。

電波遮へい対策事業の概要
対象地域
・高速道路や鉄道トンネルなど

補助対象
・移動通信用中継施設など(鉄塔や局舎、無線設備など)

対象トンネル
(道路)
・トンネルチューブ長が概ね500m以上
・トンネル両端で携帯電話サービスが利用可能な点
(鉄道)
・大量輸送・長距離路線における長距離トンネル

研究会では雪国の例があがっており、雪国では積雪から道路を保護するため道路に屋根を設置している。しかし、冬場にはその屋根さえも雪が覆ってしまい、結果的にトンネル状になり、携帯電話サービスが利用しにくくなるという。

実際の費用負担に関しては以下のとおりとなる。

表:道路と鉄道トンネルの費用負担
道路トンネル鉄道トンネル
1/2(50%)1/3(33.3%)
鉄道事業者なし1/6(16.7%)
一般社団法人など1/2(50%)1/2(50.0%)

国庫補助金額による電波遮へい対策事業への予算としては、2009年度から2010年度に約29億円から約21億円に削減されたが、2010年度以降は約20億円を維持している。

2013年度の電波遮へい対策事業に対する主な指摘・意見に関し、達成度の低さがあがっている。目標設定の誤り、鉄道事業者への負担、乗客からの鉄道事業者への携帯電話サービスのニーズの少なさ、これらの何が要因なのか分析の必要性が求められている。

また、無線システム普及支援事業(携帯電話等エリア整備事業)の場合、予算額と実施箇所数がリンクするのに対し、電波遮へい対策事業では補助金額と実施箇所数はリンクしない点が気にかかる。

補助金額が20億円規模でも年度により、実施箇所数が下限は47、上限が100と倍の開きがある。これらは研究会ではふれられていないが、実施箇所数が少なかった場合、トンネル距離の短い箇所を多く整備したのだろうか。

一般的に高速道路や鉄道トンネルなどは不感地域解消に比べて公共性も高く、事故や災害時でも携帯電話サービスが利用できる状態が望ましい。そのため今後も移動通信基盤整備協会の展開に期待がかかる。

執筆:大門太郎