2013年12月27日金曜日

今こそ『顧客ファースト』のススメ

1.大本営発表の限界

インターネットの普及は、あらゆる意味において供給者と需要者の距離を短くしただけでなく、時には需要者が供給者となるような事態も生んでいる。

例えば、私達がやっている情報を提供するという仕事であれば、昨日まで端末の回路設計をやっていた人がブログを立ち上げ、それを生業としている人よりも優れた情報を提供するといったことが日常的に起きている。

こうしたことは、モバイル産業でも全く同じてある。キャリアがチャンピオンだった時代は、大本営発表よろしく、情報は一方通行で、顧客に検証や精査、別の選択肢という道は非常に限られていたように思う。

しかし、今やネットをググれば、様々な情報にアクセスでき、大本営発表の真偽のほどを個人レベルで推し量ることが可能となった。それだけではない。仮にキャリアにとって不都合な事実が流れ、それがマスコミであまり伝えられないとわかると、何か操作や圧力が・・・。というように、逆に情報が伝播して行くような事態も起きている。先ごろ、あるキャリアがクレジットカードの個人情報が漏れるという深刻な事態を起こしたのに、マスコミが沈黙したケースは、まさにそうだろう。

また、あるキャリアショップでは、ゼロ円で端末を提供する代わりに、10万円以上のオプション加入をさせられたとニュースになったが、地方の小さなお店で起きていることが、一瞬にして日本中に伝播する時代なのだ。

問題の本質は、これまでのように『キャリア都合で事が動かなくなっている』ということだ。

2.坂の上の世界

iPhoneで差別化ができなくなり、今キャリアはTVCMを使ってLTEのエリア整備を競うように訴求している。しかし、顧客は本当にそこを選択肢としているのだろうか?そんな素朴な疑問を持ってしまう。

キャリアの中には、昔の栄光よろしくAndroid、iOSの第三のOSを模索していると伝えられるが、それは顧客にとって、これまでのOS以上にどういった価値を提供できるのだろうか。そんなことは二の次で、そこにはただ相変わらずのキャリア都合があるようにしか思えない。

本当の意味で『顧客ファースト』というスタンスへいつになったら転換できるのか。スマホの次は、いよいよ「キャリア中抜きの時代」となりやしないのだろうか。

執筆:天野浩徳

2013年12月6日金曜日

いよいよ動き出したVoLTEサービス

 いよいよ、国内市場でも本格的にVoLTE(Voice over LTE)が動き出した。すでに韓国市場ではVoLTEサービスの提供が開始されており、米国でも2014年中の運用が予定されている。

 エリクソン・ジャパンが2013年10月31日に、ソフトバンクモバイルのVoLTEソリューション供給ベンダに選定されたと発表した。今後、エリクソン・ジャパンはソフトバンクモバイルの既存モバイルコアネットワークへIMSコアの導入、アップグレードを行う。

 VoLTEインフラはソフトバンクモバイルの将来のネットワーク仮想化計画とテレコムクラウド導入のベースにもなり、ネットワークの周波数利用効率の向上も期待できる。

 また、ノキア ソリューションズ&ネットワークス(NSN)も10月30日に、プライベートイベント「eXperience Day2013」を開催した。イベントではVoLTE SRVCCのデモも実施され、クリアな音声を聴くことができた。

 すでに韓国市場ではSK TelecomとLG U+がVoLTEサービスを提供しており、NSNは両社に機器を供給している。韓国市場でのVoLTE商用化はLTEネットワークのみでの運用となり、国内市場のLTEとW-CDMA方式ネットワーク混在の運用とは様相が異なる。

 NSNのVoLTE SRVCCは国内キャリアと同様に通信方式が混在しているシンガポールStarHubが導入する予定とされる。国内市場でもエリクソン・ジャパンによるソフトバンクモバイルへの供給が決定した今、NSNはすでに取引のあるKDDIへの供給を決定したいところであろう。

 一方、NTTドコモの動きはどうであろうか。2013年6月に、NTTドコモが携帯電話の音声通話に定額料金を採用する検討を開始したと報道された。報道によると、2014年度を目標に、新規投入する端末から音声定額制サービスを標準化する方針で、利用料は月額1,000円前後を軸に調整するという。

 おそらく、このサービスはVoLTEを利用したものになる見込みである。以前、国内ベンダからNTTドコモはVoLTEの品質にはこだわっていると話を聞いたことがあり、商用化されるVoLTEサービスには高品質な音質が期待できそうだ。

 NTTドコモが2014年中の提供開始ということから、他キャリアも追随するものとみられる。国内市場でも2014年以降、音声定額制サービスが標準的なサービスになっていくであろう。

執筆:大門太郎

2013年11月26日火曜日

iPhoneの『特異性』と『破壊力』

 最近の調査会社から発表されるスマートフォンのOS別マーケットシェアを見ると、世界全体ではAndroid躍進が鮮明になる一方で、日本市場ではiOS優勢の状況となっている。

 国内ではNTTドコモが新たにiPhoneの取り扱いを開始したことが影響し、2013年度Q3期ベースではスマートフォン出荷台数の半分程度を獲得したと見られている。iPhone寡占化の状況は、例えばITmediaが毎週発表している携帯販売ランキングからも見て取ることができる。

 アップルの2013年7~9月期決算によれば、世界の売上高の4分の1は日本と中国が占めており、なかでも日本ではNTTドコモによるiPhoneの取り扱い開始が貢献し4割増を記録した。サムスンの攻勢もあり、主力の米欧市場が停滞するなか、今や日本市場はアップルにとってホームグランドと化している。

 では、そもそも何故、日本市場だけはアップルが今だに制空権を持っていられるのか?最も分かりやすい理由としては、日本市場ではサムスンの勢力が弱いからである。

 海外では、高級路線から低価格まで幅広い端末ラインナップを取り揃えライバルを駆逐してきたサムスンだが、こと日本では決して成功しているとは言えない。今年の春は、NTTドコモからツートップ戦略の一角としてシェア拡大を狙ったものの、思うような成果を上げられていない。

 年に1機種しか新製品を発売しない端末ベンダーが幅を利かせていることが市場として健全なのかという疑問もあるのだが、先に述べているように出荷台数の半分程度がiPhoneだとすると、アップルから見れば全キャリアに端末を供給しているわけで、市場を完全にコントロール下に置いているように映る。

 実際、アップルの事情に明るい関係者によれば、アップルはモバイルキャリアの正確な在庫情報をリアルタイムに把握し、モバイルキャリアは代理店と化しているというコメントをよく耳にする。今は、三社横並びでiPhoneを取り扱い、各社が競ってインセンティブを投下し値段を下げることで端末が更に売れるという、まさにアップルにとっては自分の財布が傷むこともない理想のスパイラルなのではないだろうか。

 もっとも、iPhoneが売れている理由はそれだけで片付けることはできない。利用者のアンケート調査をやってみて一番驚かされるのは、iPhone利用者の満足度の高さだ。弊社で実施しているデータによれば、iPhone利用者の9割以上が「次もiPhone」と答えているのだ。

 iPhoneは、それほどの破壊力を持っていたからこそ、モバイルキャリア中心のエコサイクルを顧客ファーストへと転換させたし、たった1つの製品が市場や業界を変革することができたのである。その点で、そのパワーはiモードの比ではないことだけは明らかではないだろうか。

執筆:天野浩徳

2013年11月20日水曜日

パナソニック システムネットワークスの基地局事業の行方

 パナソニック モバイルコミュニケーションズ(PMC)が2013年4月1日に、パナソニック システムネットワークス(PSN)へ携帯電話基地局事業を移管した。基地局事業はPSN インフラシステム事業部内のネットワークビジネスユニットが担当する。

 PMCの基地局事業は2007年にノキア シーメンス ネットワークス(NSN、現ノキア ソリューションズ&ネットワークス)とNTTドコモ向けLTEネットワーク・インフラの提供で協業した。11月にはLTE/W-CDMA方式共用の2.1GHz帯向け光張出し無線装置の共同開発を開始している。

 2011年1月にNTTドコモの商用LTEサービスへLTE/W-CDMA方式共用光張出し無線装置が採用された。ただ、NSNによるLTE無線機の開発が遅れ、2010年12月のサービス開始時に間に合わせることができなかった。

 従来、PSNにおけるNTTドコモの3G無線機シェアはNECや富士通に並び、3強の位置を占めていた。しかし、関係各社から話を聞いていると、LTE無線機シェアではNECと富士通の2強体制に変わりつつあるようだ。LTE無線機の開発遅れや、NECと富士通に比べてPSN/NSNのLTE無線機は大型とされる点などの影響とみられる。

 シェアを落としているPSNであるが、2013年2月21日にはNSNとともに、NTTドコモのLTE-Advancedネットワーク・ベンダに選定されている。競合のNECや富士通も選定されており、3強に一角に踏みとどまることができた。そうした中、3月1日に発足したPSNへ基地局事業移管が行われた。関係各社はPMCが事業分離を行ったことにより、その後の事業譲渡がしやすくなったとの見方も多い。

 事業譲渡先として、第一候補となるのはPSNと最も関係の深いNSNであろう。しかし、NSNは現在、親会社のNokiaが仏Alcatel-Lucentのワイヤレス部門との提携ないし買収を検討しているとされる。Nokiaとしては、PSNよりも仏Alcatel-Lucentとの関係を強化させ、北米市場などで攻勢に出たい考えとみられる。

 次にSamsung ElectronicsやHuawei Technologiesも候補になるのではないだろうか。すでに両社とも国内の無線機市場に参入しているが、NSNやEricssonに比べてシェアは小規模である。PSNを買収してNTTドコモへの参入を図ることでシェアを拡大させ、グローバルでの宣伝効果も期待できる。

 最後にEricssonも可能性があるものとみている。すでにNTTドコモのLTE無線機市場に参入しているが、3G無線機に比べて大きな実績が残せていない。現在、ソフトバンクモバイルとイー・アクセス(イー・モバイル)に無線機、KDDI(au)にはIMSを供給しており、NTTドコモへの無線機供給を本格化させることで国内での地位は磐石となる。

執筆:大門太郎

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関連資料
携帯電話基地局市場及び周辺部材市場の現状と将来予測 2014年版

2013年11月7日木曜日

キャリア各社のLTEエリア展開について

 日経BPコンサルティングやMMD研究所、ICT総研などが「iPhone」におけるキャリア各社のLTEサービスの調査を実施している。各社の調査結果はまちまちであるが、都心部ではKDDI(au)やソフトバンクモバイルが強く、地方部ではNTTドコモが強いという印象を受ける。さらにNTTドコモのLTEサービスは実効速度が遅く、エリアも際立って広くないという結果もみられる。

 総じて、他キャリアよりも先行的にLTEサービスを開始していたNTTドコモが、必ずしもトップではないということが伺える。調査方法やエリア設定にバラツキがあり、一概に優劣を図ることができないため、今回はキャリア各社のLTEエリア展開などを考えてみたい。

プラチナバンドの800MHz帯をアピールするau
 KDDI(au)のLTEサービスは当初、iOS(iPhone 5)向けの2.1GHz帯、Android向けの800M/1.5GHz帯という位置付けになっていた。本来、KDDIはLTEサービスのメインバンドに800MHz帯を据えていたため、2.1GHz帯LTEが他キャリアに比べて弱い面がある。

 しかし、「iPhone 5s/5c」が800MHz帯LTEに対応したことにより、iOS(iPhone 5s/5c)向けLTEサービスもエリアが強化された。すでにKDDI(au)の800MHz帯LTEはAndroidユーザに好評を得ており、それがiOS(iPhone 5s/5c)向けでも利用できるのは朗報といえる。

SBグループは利用可能な帯域幅が少ないものの好成績
 ソフトバンクモバイルは2.1GHz帯でのみLTEサービスを展開し、グループ会社であるイー・アクセス(イー・モバイル)の1.7GHz帯LTEで補完する形になっている。現時点で他キャリアに比べ、LTEサービスへの割当可能な帯域幅が少ないが、調査結果では好成績を獲得し、ポイントを絞ったLTEエリア展開が奏功しているものとみられる。

 しかし、今後も帯域幅の急拡大が見込めず、利用可能な周波数帯に関しては苦しい戦いが続く。

 余談になるが、私はソフトバンクモバイルの3Gスマートフォンを利用している。通勤時の中央線、総武線では現在も通信が途切れることが多く、正直、ソフトバンクモバイルのLTEエリアやスピードテストの結果には驚きを隠せない。現在もLTEサービスなどには対応していないため、次回機種変更時の「Hybrid 4G LTE」対応には非常に期待している。

2014年春に他キャリアを凌ぐLTEネットワークを提供するドコモ
 最後にNTTドコモに関して、これまでは徐々にLTEエリア展開を図り、年度ごとに一定の基地局を置局していくイメージであった。しかし、KDDI(au)とソフトバンクモバイルのLTEエリア展開は開始初年度に一気に構築するロケットスタートになった。

 この点が調査結果におけるNTTドコモの成績に大きく影響しているのではないだろうか。NTTドコモとしては、従来どおりのエリア展開計画でLTEサービスの提供を考えていたが、他キャリアの予想外に迅速なエリア拡大に遭遇してしまった感がある。

 その結果、高トラフィックエリアを中心にLTE展開してきたNTTドコモと、早期的な全国エリア化を図った他キャリアと差が出てしまった。実効速度に関しては、LTEユーザ数の多寡が大きく影響しているものと考えられ、国内で最もLTEユーザ数の多いNTTドコモは苦戦している。

 ただ、現状に対し、NTTドコモも足踏みしている訳ではなく、2013年度は当初計画を前倒ししてLTE基地局数を倍増させる。さらに高速化に関しても、1.7G/1.5GHz帯の運用を本格化させて速度向上を図る。2014年春には他キャリアを凌ぐLTEネットワークを提供する方針で、今後のNTTドコモの反撃に注目したい。

執筆:大門太郎

2013年11月5日火曜日

『iPhone』戦国時代の競争構図③ 歴史を振り返れば

 通信産業の競争戦略を論じる時に、どういったフレームワークがいいのだろうか。

 色々と研究しているが、なかなかピタッとくるものはない。特に、グローバルに技術やサービス、競争関係が目まぐるしく変化するモバイル分野については、その産業ポテンシャルの割りには関わっている研究者は少ないように感じる。

 固定、携帯電話を問わず、通信サービスという業態を考えるとき、生業としては水道や電気と似ている。

 しかし、先に述べたように、その変化のスピードが決定的に違う。その点で、ポジショニング理論などの静的アプローチに無理があることは明らかだろう。

 今回、3キャリアがiPhoneで横並びとなり、もともと差別化要素の少ない競争軸を打ち出すことが更に難しくなったように思える。

 マスコミ的には、サービス内容やネットワーク品質だという書き方をしていることが多いように見受けられるが、それが決定的な差別化要素になるとは考えにくい。

むしろ歴史を振り返れば、
・何故、ドコモはiモードで携帯市場を席巻できたのか
・何故、3G離陸の際にKDDIが一人勝ちしたのか
・そして、何故ソフトバンクは純増競争でリードを続けられているのか

 そこから得られるファクトを深く分析する時期のような気がする。きっとそこにヒントがあるはずた。

執筆:天野浩徳

<『iPhone』戦国時代の競争構図>
①ドコモ参戦につき
②変容する業界地図とその先に見えるもの
③歴史を振り返れば

2013年11月1日金曜日

携帯電話の基地局整備の在り方に関する研究会 第1回会合にて(トンネル編)

前回は携帯電話の基地局整備の在り方に関する研究会での不感地域解消の動向を追った。今回は高速道路や鉄道トンネルなどにおける電波遮へい対策事業の動向を追う。

前回の不感地域解消は国や都道府県、市町村、キャリアが行っていたが、高速道路や鉄道トンネルなどは国や鉄道事業者、一般社団法人などが担当する。トンネルなどの場合、キャリアが直接、関与しない代わりに、公益社団法人 移動通信基盤整備協会が大きく関与している。

その移動通信基盤整備協会は自主事業として、主な遮蔽空間のうち、地下駅や地下街、地下鉄等駅間、道路トンネルなど、補助事業としても道路や鉄道トンネルの不感対策を実施する。

2012年度のトンネル整備の現状として、高速道路は補助対象に対する利用可能トンネル数が631/635、対象率は99.4%、直轄道路が同400/439、対象率は91.1%となっている。整備が進んでいるものの、現在でも携帯電話サービスが利用できないトンネルなどは存在する。

電波遮へい対策事業の概要
対象地域
・高速道路や鉄道トンネルなど

補助対象
・移動通信用中継施設など(鉄塔や局舎、無線設備など)

対象トンネル
(道路)
・トンネルチューブ長が概ね500m以上
・トンネル両端で携帯電話サービスが利用可能な点
(鉄道)
・大量輸送・長距離路線における長距離トンネル

研究会では雪国の例があがっており、雪国では積雪から道路を保護するため道路に屋根を設置している。しかし、冬場にはその屋根さえも雪が覆ってしまい、結果的にトンネル状になり、携帯電話サービスが利用しにくくなるという。

実際の費用負担に関しては以下のとおりとなる。

表:道路と鉄道トンネルの費用負担
道路トンネル鉄道トンネル
1/2(50%)1/3(33.3%)
鉄道事業者なし1/6(16.7%)
一般社団法人など1/2(50%)1/2(50.0%)

国庫補助金額による電波遮へい対策事業への予算としては、2009年度から2010年度に約29億円から約21億円に削減されたが、2010年度以降は約20億円を維持している。

2013年度の電波遮へい対策事業に対する主な指摘・意見に関し、達成度の低さがあがっている。目標設定の誤り、鉄道事業者への負担、乗客からの鉄道事業者への携帯電話サービスのニーズの少なさ、これらの何が要因なのか分析の必要性が求められている。

また、無線システム普及支援事業(携帯電話等エリア整備事業)の場合、予算額と実施箇所数がリンクするのに対し、電波遮へい対策事業では補助金額と実施箇所数はリンクしない点が気にかかる。

補助金額が20億円規模でも年度により、実施箇所数が下限は47、上限が100と倍の開きがある。これらは研究会ではふれられていないが、実施箇所数が少なかった場合、トンネル距離の短い箇所を多く整備したのだろうか。

一般的に高速道路や鉄道トンネルなどは不感地域解消に比べて公共性も高く、事故や災害時でも携帯電話サービスが利用できる状態が望ましい。そのため今後も移動通信基盤整備協会の展開に期待がかかる。

執筆:大門太郎

2013年10月31日木曜日

『iPhone』戦国時代の競争構図② 変容する業界地図とその先に見えるもの

1.モバイルキャリアの収益力を支える財布
 スマートフォンの普及は、単にフィーチャーフォンからの切り替えを意味するのではない。

 これまでモバイルキャリアは、端末からインフラ、サービス、そして流通まで一気通慣で管理する生態系の頂点に君臨することで、業界の住人やネットワークサービスの最適化を図ってきた。

 しかし、第三者が開発したスマートフォンが登場するや、そのモデルは急速に瓦解する。

 端末と通信料金の分離などの影響もあり、販売手数料や加入手続きなどの際に支払われる支援費が年々減少し、流通を担う販売代理店は経営に行き詰まり、ここ1.2年は中小の撤退とともに、大手同士の合併が頻発している。

 長く国内ベンダーの独壇場だった端末市場では、スマホの普及とともに波が引くかのように撤退や合併が相次ぎ、代わってアップルやサムスンといった外資系ベンダーが勢力を伸ばしている。

 厳しさという点では、コンテンツ分野でも変わらない。スマホの普及で公式サイトのようなリスクがない商売は細り、今は数千万円から億単円位でメガヒットを狙うしか生き残れない博打型の市場に様変わりしてしまった。

 このように変化の波は、モバイルキャリアの周辺で起きているように見えるが、実はこの間、モバイルキャリアの本業をの儲けを示す営業利益率に大きな変化はない。

 つまり、言い方としては適切でないかも知れないが、この収益維持は、モバイルキャリアが周辺を巧みに調整することで確保してきたという見方もできるのである。

 その意味で、スマホ時代となって、モバイルキャリアのパワーが落ちて、影響力がなくなったとする論調は、間違いである。一定の収益を確保するための財布を幾つか持っていたが、それが少なくなっているという捉え方が正確ではないだろうか。

2.iPhone普及の先に見える日本のカタチ
 そして、これから独自のエコシステムを持つiPhoneの進軍が本格化する。

 iPhoneが最終的に日本でどこくらいまで普及するのかわからないが、仮にスマホがフィーチャーフォンを駆逐し、その半分はiPhoneとなれば、今更外資系云々と言ってもという声があることは重々承知の上で、アップルが日本で最も個人情報を持つ会社になるのかも知れない。
 
 実は、アマゾンなどのOTT(Over The Top)企業の多くは、日本であれだけの商売をしていながら日本にはお金が落ちる仕組みになっていないのは有名な話である。

 話を元に戻そう。とにかく現状は競争に勝つために各社かiPhoneに頼っているわけだが、その先にある世界が日本の社会や産業にとって木や植物が朽ち果てた焼け野原になっていないことを祈るばかりである。

執筆:天野浩徳

2013年10月17日木曜日

携帯電話の基地局整備の在り方に関する研究会 第1回会合にて

2013年10月1日に、総務省による携帯電話の基地局整備の在り方に関する研究会 第1回会合を傍聴してきた。これまでも総務省では携帯電話サービスの不感地域の解消を目指した取り組みを行っている。

同研究会は、その一環として、山間部やトンネルなどにおける基地局整備がある。平時において、陸地と海上などに分類し、特に陸地では人の多い(住宅密集地や街中、地下鉄など)、少ない(山間部やトンネルなど)で区分している。

基本的に陸地ではキャリア主導のエリア整備が行われるが、山間部やトンネルなどではキャリア主導及び補助事業で基地局整備が行われる。一方、海上などでは衛星携帯電話サービスなど他の無線システムが利用可能であるため基地局整備は行われない。

実際に2005年度末に58万であったエリア外人口は、2012年度末には6万にまで縮小している。研究会の取り組みとともに、キャリアも確実な不採算エリア解消に努めてきた。

しかし、それでも6万のエリア外人口のため、現在も基地局整備の検討が進められるのだ。地方自治体は不感地域の解消を要望し、キャリアが不感地域の解消を担い、研究会が取りまとめを行っている。

実際の費用負担として、国や地方自治体、キャリアの負担割合は基地局と伝送路、世帯数で異なる。基地局に関しては、キャリアの負担は一切ないが、伝送路は国が10年間の伝送路利用料を半額程度負担し、11年目からはキャリアが全面負担する。こうした枠組みの中、基地局整備が進められていく。

表:基地局(鉄塔や局舎、無線機など)の費用負担
     100世帯以上 100世帯未満
国   :1/2(50%)  2/3(66.7%)
都道府県:1/5(20%)  2/15(13.3%)
市町村 :3/10(30%)  1/5(20%)


表:伝送路の費用負担
     100世帯以上 100世帯未満
国   :1/2(50%)  2/3(66.7%)
キャリア:1/2(50%)  1/3(33.3%)
※国は10年間の伝送路利用料を負担し、11年目からはキャリアが全額負担。


研究会を傍聴していて感じたのは、不感地域において、本当に携帯電話サービスが必要なのか、整備済みエリアにおける携帯電話サービスの利用実態はどうなのかといった現状把握の重要さである。

そして、何よりも重要な課題としては予算に行き着く。キャリアからの意見も予算面の問題が最も大きく、現行制度で不感地域の解消を進めれば進めるほど、残る地域は不採算エリアの中でも不感地域解消に最も費用がかかり、採算の取れないエリアとなる。

伝送路コストは明らかになっていないが、通常の2倍、3倍、ひいては5倍にまで費用が拡大する見込みとされる。11年目以降、全額負担となるキャリアとしては大きな問題である。

現状、エリア外人口が少なくなっているため、国庫補助金額による無線システム普及支援事業(携帯電話等エリア整備事業)の予算は減少傾向にある。にも関わらず、残された不採算エリアを整備するには、これまで以上に伝送路費用がかかるため、追加予算措置が欠かせない状況にある。

こうした問題以外にも、10年間という限定された国の伝送路費用負担の撤廃、その他の省庁からの予算引き出しなど検討すべき課題は多い。

参考URL
携帯電話の基地局整備の在り方に関する研究会
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/mobil_bs/index.html

執筆:大門太郎

2013年10月10日木曜日

『iPhone』戦国時代の競争構図① ドコモ参戦につき

1.NTTドコモ×iPhone
 日本時間9月11日午前2時に開催されたアップルの発表会で、NTTドコモのロゴが映し出され、同社が初めてiPhoneを扱うことが全世界に配信された。

 SBM(ソフトバンクモバイル)が2008年にiPhoneを発売して以来、NTTドコモから他社へのMNP(Mobile Number Portability)によるポートアウトは累計で350万回線以上(ドコモの契約全体の5%以上)となった。

 特に2012年月の「iPhone5」発売後はMNPによる顧客の転出超過数ペースが以前の倍近い月15万件前後に拡大。2012年度の国内の携帯累積シェアは42%と、10年前を14ポイントも下回る水準まで落ちている。
 関係者のなかには、「この際、一度落ちるところまで行った方がいい」といった意地悪な意見が聞かれる一方で、その失速ペースは尋常ではない。

 夏商戦ではiPhone対抗策として、販売促進費をソニーと韓国サムスン電子のスマホ2端末に集中投入する「ツートップ戦略」を打ち出したものの、状況は変わっていない。

 では、iPhoneをドコモが扱うと、契約者が流出するのを止血できるのだろうか。事はそんな単純ではないだろう。

 何故なら競合するKDDIとSBMは、ドコモがiPhoneを扱うことを想定して準備を進めてきたわけだし、販売ノウハウの面でも一日の長がある。そして、少なくとも現時点でアップルから満足できるレベルで端末量を仕入れられてるとも思えない。

 しかし、今後も扱わないとするリスクと比較すれば、その下げ幅は時間が経過すれば効果が出てくるのではないだろうか。例えば、2013年9月にカンター・ジャパンが発表した調査では、『ドコモ契約者がキャリアを乗り換えた際に購入した機種は、66%がiPhone』だっとする結果を発表している。

2.ライバルではなく、iPhoneに敗れてきた
 世界のスマートフォン市場を眺めると、そもそも日本はアップルの母国である米国と並んでiPhoneのブランド意識が非常に高い。それは、地位別のモバイルOSの普及状況からも読み取ることができる。

 弊社では、定期的にモバイルOSのアップデート集計を行っているが、世界的なAndroid優位の状況とは異なり、国内市場では両者(iOS vs Android)の勢力は拮抗している。

 今回、ドコモがiPhoneを取り扱うことで、同OSの勢力は更に上昇する可能性が高い。ドコモの13年度スマホ販売目標は1,600万台としてるが、仮にiPhoneの構成比が3割で両社が合意したとすると、ドコモの最低限の販売ノルマは480万台となり、それが新規で上積みされることになる。

 2013年9月には、インプレスビジネスメディアのシンクタンク部門であるインターネットメディア総合研究所が「スマートフォンユーザー満足度調査2013」の結果を発表したが、そのなかで現在主に利用しているスマートフォンの総合満足度は、SBMが54.1%でトップとなり、以下、auが46.9%、ドコモが43.8%という順になったとしている。

 SBMがトップで、ドコモの満足度が最も低くなっていることに違和感を覚える方もいるかも知れないが、その理由は単純明快、iPhone取り扱い有無の差ということに尽きるとしている。

 同調査の項目別の評価では、「本体」「月々の料金」「独自サービス」はSBMが1位、「ネットワーク」「サポート・アフターケア」はドコモが1位となった。ただし、「ネットワーク」についてはLTEに限定した場合は、SBMが1位であった。一方、3キャリア平均で59.4%と高い満足度の「本体」に対し、「ネットワーク」「サポート・アフターケア」「独自サービス」の満足度は3割程度、「月々の料金」は16.9%と低い。

 つまり、iPhone比率が最も高いSBMが満足度も最も高いというだけで、この点からもドコモはライバルに負けたというよりも、iPhoneにやられて来たということが言える。

2013年1月23日水曜日

ドコモ春モデル発表&ドコモスマートホームの行方



 NTTドコモは、2013年春モデルとして、スマートフォン・タブレット11機種、モバイルWi-Fiルーター1機種の計12機種を発表した。

 高いデザイン性が特徴のソニーモバイルコミュニケーションズ製「エクスペリアZ」や国内で初めて2画面のタッチパネルを備えたNECカシオモバイルコミュニケーションズ製の「MEDIAS W N-05E」を軸に、「スマートフォン for ジュニア SH-05E」以外の機種にはAndroid 4.1を採用し、 「スマートフォン for ジュニア SH-05E」と「MEDIAS W N-05E」「モバイルWi-Fiルーター HW-02E」以外はクアッドコアCPUを搭載している.

  高速データ通信では、Xiが下り最大100Mbps対応へと進化し、そのなかでも「Ascend D2 HW-03E」と「モバイルWi-Fiルーター HW-02E」のファーウェイ製端末は下り最大112.5Mbpsをサポートしている。

 また、新たな取り組みとして発表されたのが、スマートフォンと家庭のAV機器を連携させることで、映像や音楽などのコンテンツを自由に視聴できる環境を提供する「ドコモスマートホーム」である。

 同サービスの提供にあたりドコモでは、専用のタブレット端末「dtab」(中国・華為技術 3月下旬発売)を用意した。携帯電話回線は非搭載だが、Wi-Fiには対応している。追加料金なしで、dマーケットのサービスを利用できるようになっており、ドコモでは9,975円の低価格(9月末までのキャンペーン価格。通常は2万5,725円)で一気に普及を目指す構えだ。

 この他、同サービスではドコモの動画配信サービス「dビデオ」「dアニメストア」、音楽配信サービス「dヒッツ」、YouTubeの動画を受信して再生できる超小型セットトップ・ボックス(STB)「SmartTV dstick」、地上デジタル放送などのコピー制御技術が施された動画を転送してタブレット端末やスマートフォンで再生することができるアプリ「Twonky Beam」なども合わせて提供される。

今後の注目点
-iPhoneの在庫調整が終息した段階で春モデルが投入されるが、昨年末のようなiPhoneへの流出現象がどの程度緩和されるか。

-同社は、2015年にdマーケットで1,000億円の売上目標(現在は2,000億円程度)を掲げており、今回はその実現へ向けての第一弾となる。既に映像配信サービスの「dビデオ」が320万契約、アニメ専門サービスの「dアニメストアが22万契約、音楽PV配信の「dヒッツ」が33万契約といった会員を獲得しているが、果たして今回の強化策でどのくらい顧客を獲得できるか。

-その1つのトリガーは、dマーケットの他社利用者へのオープン化(現在はゲームのみ)となる。そして、ライバル各社(アマゾンなど)と伍して戦っていくためには、魅力的な品揃え&サービスと共に、物流網の整備が課題。

-これまで携帯回線を必須としてきたタブレット戦略から、一部修正の動き。携帯回線の非搭載端末を投入することで、ランニングコストの負担感をなくすというコンテンツ収益モデルへの転換は、ドコモにとっては画期的な試みだが、クローズ型(ドコモ利用者のみ)の「dtab」がどこまで普及するか。

-「dtab」登場によって、年度末商戦で回線とのバンドル販売(実質0円状態)が想定され、これによってアマゾンやグーグル、アップルといった先行するタブレット市場が一気に活発化していく可能性が大きい。

「dtab」もそうだが、Xiで下り最大112.5Mbpsに対応したのは中国のファーウェイであり、その点からも同社がドコモ端末戦略の一翼を担うポジションへアップしたと見るのが適当。今後両社の関係がインフラ面へも進んでいく可能性はないのか。

-2013年1月より順次対応していくとにアナウンスしていた「電話帳」「spモードメール」のクラウド化についてはどうなったのか。キャリアメールの対応不備は、ダムパイプ化を加速させることから、総合企業化を目指すドコモにとっては早期の対応が求められる。

参考URL
2013春モデルの12機種を開発・発売
http://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2013/01/22_00.html

執筆:天野浩徳