2014年1月17日金曜日

PHSの低コストから考える携帯電話の良識

1.コスト競争力の強さが復活の原動力となったウィルコム
今年11月からウィルコムがMNPの仲間いりとなり、携帯電話利用者との間で番号を変えずPHSを利用したり、逆にPHSから携帯への移行が可能となった。

PHSは日本発の技術でありながら、携帯電話との競争に敗れ、長く苦難の歴史を辿ってきた。当時、携帯電話との競合を避けるために、PHS会社はデータ通信サービスの強化や音声定額などで挽回を目指すも、ことごとく携帯電話のキャッチアップにあい、なかなかレッドオーシャンから抜け出すことができなかった。

そして、いつの間にかPHS会社のなかで残っているのはウィルコムだけとなり、それとて窮地に追い込まれており、親会社だったKDDIが見離す中、救済したのがソフトバンクだった。

ソフトバンク傘下に入ったウィルコムは、一定の条件付きながらも他社への電話まで含めた音声定額サービス「誰でも定額」を導入したことが功を奏し、加入者数は再成長基調へと反転した。

「誰でも定額」はオプションサービス(月980円)で、他社ケータイ、家・会社の電話へ、1回あたり10分以内の国内通話が無料となるが、これに月1,450円の新ウィルコム定額プランSを組み合わせることでウィルコム同士24時間通話無料。Eメールはケータイへもパソコンへも、送受信無料で利用できるようになる。

つまり。毎月2,000円あまりで話し放題、メールし放題となる訳で、携帯電話との圧倒的なコスト競争力に改めて驚かされる。

2.携帯電話の『あり方』として正しいのか?
ところで、今回ウィルコムを取り上げた理由だが、それは近い将来の携帯キャリアの姿や、本来あるべき世界のヒントが同社にあると考えるからである。

実は、ウィルコムがこうした低コストでサービスを提供できる理由は、設備投資の減価償却が終わり、最もコスト要因として大きい新規のネットワーク費用を利用者が負担する必要がないためである。意地の悪い人は、進化がない技術と揶揄するが、音声特化を掲げるウィルコムにそうした必要性はない。

ウィルコムはソフトバンク傘下になってから上場廃止したため経営情報はわからないが、このレベルでも十分に黒字となっていることは、幹部のコメントからも推察できる。

これに対して、携帯電話の料金レベルをPHS並に引き下げれば、携帯キャリアの経営が立ち行かなくなることは明らかだ。理由は、先のPHSの事情と全く逆で、ネットワークの進化が常に図られ、そのコスト分を通信料金に上乗せする必要があるからだ。

アナログからデジタル(PDC)方式へ、そして3GからLTEへ、そして今度は4Gへと無線ネットワークの技術は進化し、その都度、全国の通信ネットワークが張り替えられてきた。技術の進化によって、周波数の利用効率が向上したり、通信速度が高速化するなど、それら全てが悪いとは思っていない。

ただ、こうした絶え間ない技術のスピードは、果たして誰のためになっているのかと考えるのである。暴論との指摘を省みず、逆にPHSのようなサイクルで動いているとすれば、同じようなことができるのではないか。単純にそう思うだけなのだ。

この問題は、これまで述べてきているように携帯電話の高い通信コストを、このまま顧客が負担し続けるというのは本当に正しいのかという本質を私たちに突きつけている。更に言えば、総務省の護送船団方式によってとまで言うつもりはないが、マスコミが騒ぐような差別化をモバイルキャリアが本気でやるのであれば、本来ならば、そうしたレベルから考えないと顧客には見えないのではないと思うのである。

見えない通信サービスを提供しているだけに、そこに隠されている事情について、今一度再考する時期なのかも知れない。

執筆:天野浩徳

2014年1月6日月曜日

2015年にLTE-Aサービスを提供する予定のキャリアはどこだ?

2015年にも国内市場において、LTE-Advanced(LTE-A)の商用サービスが開始される見通しとなった。総務省が2013年11月に、電波監理審議会へ下り最大1Gbps以上を実現するLTE-Aサービスの国内導入に向けた無線設備規則などの改正案を諮問したためである。

電波監理審議会は原案通りに認める答申で、総務省は近く改正を施行し、2014年からLTE-A基地局などが整備できるようになる。ちなみにLTE-Aは3GPPで規定されたLTEの次世代移動通信規格で、LTEとの上位互換性を持っている。

法制度などによるLTE-A導入の後押しが進む中、実際のキャリアや無線機ベンダの動向はどうだろうか。

NTTドコモは11月に、LTEのマルチバンド対応屋内基地局装置と屋内アンテナを開発したと発表した。これらは2.1G/1.7G/1.5GHz帯に対応し、LTE-Aにおけるキャリアアグリケーションにも対応している。

ソフトバンクモバイルも8月に、東京都内の銀座及び池袋周辺において、3.4~3.6GHz帯を利用したLTE-A TDDの実証実験を実施した。LTE-A TDDはIMT-Advancedの無線インタフェース技術として、3GPPによって技術仕様が策定された技術である。

イー・アクセスも9月に、1.7GHz帯でのLTE実証実験において、下り291Mbpsの通信速度を記録したと発表した。同実証実験ではLTEで連続20MHz幅を利用した場合と、LTE-Aのキャリアアグリゲーションで合計20MHz幅を束ねて利用した場合で実施された。

一方、無線機ベンダは2月以降、NTTドコモがLTE-Aに対応した高密度基地局装置の開発ベンダ選定の発表が相次いだ。まずは2月21日にパナソニック システムネットワークス(PSN、当時はパナソニック モバイルコミュニケーションズ)とNSNが、続く27日にはNECが、3月1日には富士通が選定された。

PSN/NSNは複数年契約の下、2015年度の開発完了を目指し、LTE-Aの要件に適合した大容量基地局をNTTドコモに提供する計画になっている。さらにスモールセル導入に用いる光張出し無線装置(RRH:Remote Radio Head)も提供する。

NECはNTTドコモの高度化C-RAN(Centralized Radio Access Network)アーキテクチャ」に、高密度基地局装置を対応させる。また、スモールセル向け光張出し無線装置(SRE:low power Small optical remote Radio Equipment)の開発ベンダにも選定されている。

キャリア、無線機ベンダ各社ともにLTE-Aの導入に向けた取り組みが進む中、実際のLTE-Aサービスの提供はどのキャリアが早いだろうか。

採用している無線機の状況をみると、海外ベンダ製のKDDI(au)やソフトバンクモバイルはLTE-Aへのロードマップも盛り込まれ、いち早いサービス提供が可能な声が多い。LTEサービスの高速化状況からはNTTドコモやKDDI(au)が下り最大150Mbps化を進め、ソフトバンクモバイルは後塵を拝している。

これらを踏まえると、海外ベンダの最新無線機を採用し、LTEサービスの高速化で見劣りのするソフトバンクモバイルが起死回生の一手として、LTE-Aサービスの先行提供を考えていてもおかしくない。他キャリアに先駆けてLTE-Aサービスを提供することで一歩先を進む可能性もある。

しかし、NTTドコモもベンダ選定のアピールやR&D部門の存在、トラフィック対策などから、LTEサービスと同様に国内初のLTE-Aサービス提供を行う可能性も高い。

携帯電話サービス以外にも目を向けると、WiMAX 2+サービスの高速化が想定される。UQコミュニケーションズが2014年春に下り最大220MbpsのWiMAX 2+サービスを提供する計画である。セルラーキャリア各社は対抗サービスとして、LTE-Aサービス提供は必然ともいえる。

果たして、2015年にも開始が見込まれるLTE-Aサービスの提供は一体、どのキャリアになるのか、今から待ち遠しい。

執筆:大門太郎