1.モバイルキャリアの収益力を支える財布
スマートフォンの普及は、単にフィーチャーフォンからの切り替えを意味するのではない。
これまでモバイルキャリアは、端末からインフラ、サービス、そして流通まで一気通慣で管理する生態系の頂点に君臨することで、業界の住人やネットワークサービスの最適化を図ってきた。
しかし、第三者が開発したスマートフォンが登場するや、そのモデルは急速に瓦解する。
端末と通信料金の分離などの影響もあり、販売手数料や加入手続きなどの際に支払われる支援費が年々減少し、流通を担う販売代理店は経営に行き詰まり、ここ1.2年は中小の撤退とともに、大手同士の合併が頻発している。
長く国内ベンダーの独壇場だった端末市場では、スマホの普及とともに波が引くかのように撤退や合併が相次ぎ、代わってアップルやサムスンといった外資系ベンダーが勢力を伸ばしている。
厳しさという点では、コンテンツ分野でも変わらない。スマホの普及で公式サイトのようなリスクがない商売は細り、今は数千万円から億単円位でメガヒットを狙うしか生き残れない博打型の市場に様変わりしてしまった。
このように変化の波は、モバイルキャリアの周辺で起きているように見えるが、実はこの間、モバイルキャリアの本業をの儲けを示す営業利益率に大きな変化はない。
つまり、言い方としては適切でないかも知れないが、この収益維持は、モバイルキャリアが周辺を巧みに調整することで確保してきたという見方もできるのである。
その意味で、スマホ時代となって、モバイルキャリアのパワーが落ちて、影響力がなくなったとする論調は、間違いである。一定の収益を確保するための財布を幾つか持っていたが、それが少なくなっているという捉え方が正確ではないだろうか。
2.iPhone普及の先に見える日本のカタチ
そして、これから独自のエコシステムを持つiPhoneの進軍が本格化する。
iPhoneが最終的に日本でどこくらいまで普及するのかわからないが、仮にスマホがフィーチャーフォンを駆逐し、その半分はiPhoneとなれば、今更外資系云々と言ってもという声があることは重々承知の上で、アップルが日本で最も個人情報を持つ会社になるのかも知れない。
実は、アマゾンなどのOTT(Over The Top)企業の多くは、日本であれだけの商売をしていながら日本にはお金が落ちる仕組みになっていないのは有名な話である。
話を元に戻そう。とにかく現状は競争に勝つために各社かiPhoneに頼っているわけだが、その先にある世界が日本の社会や産業にとって木や植物が朽ち果てた焼け野原になっていないことを祈るばかりである。
執筆:天野浩徳
2013年10月31日木曜日
2013年10月17日木曜日
携帯電話の基地局整備の在り方に関する研究会 第1回会合にて
2013年10月1日に、総務省による携帯電話の基地局整備の在り方に関する研究会 第1回会合を傍聴してきた。これまでも総務省では携帯電話サービスの不感地域の解消を目指した取り組みを行っている。
同研究会は、その一環として、山間部やトンネルなどにおける基地局整備がある。平時において、陸地と海上などに分類し、特に陸地では人の多い(住宅密集地や街中、地下鉄など)、少ない(山間部やトンネルなど)で区分している。
基本的に陸地ではキャリア主導のエリア整備が行われるが、山間部やトンネルなどではキャリア主導及び補助事業で基地局整備が行われる。一方、海上などでは衛星携帯電話サービスなど他の無線システムが利用可能であるため基地局整備は行われない。
実際に2005年度末に58万であったエリア外人口は、2012年度末には6万にまで縮小している。研究会の取り組みとともに、キャリアも確実な不採算エリア解消に努めてきた。
しかし、それでも6万のエリア外人口のため、現在も基地局整備の検討が進められるのだ。地方自治体は不感地域の解消を要望し、キャリアが不感地域の解消を担い、研究会が取りまとめを行っている。
実際の費用負担として、国や地方自治体、キャリアの負担割合は基地局と伝送路、世帯数で異なる。基地局に関しては、キャリアの負担は一切ないが、伝送路は国が10年間の伝送路利用料を半額程度負担し、11年目からはキャリアが全面負担する。こうした枠組みの中、基地局整備が進められていく。
表:基地局(鉄塔や局舎、無線機など)の費用負担
100世帯以上 100世帯未満
国 :1/2(50%) 2/3(66.7%)
都道府県:1/5(20%) 2/15(13.3%)
市町村 :3/10(30%) 1/5(20%)
表:伝送路の費用負担
100世帯以上 100世帯未満
国 :1/2(50%) 2/3(66.7%)
キャリア:1/2(50%) 1/3(33.3%)
※国は10年間の伝送路利用料を負担し、11年目からはキャリアが全額負担。
研究会を傍聴していて感じたのは、不感地域において、本当に携帯電話サービスが必要なのか、整備済みエリアにおける携帯電話サービスの利用実態はどうなのかといった現状把握の重要さである。
そして、何よりも重要な課題としては予算に行き着く。キャリアからの意見も予算面の問題が最も大きく、現行制度で不感地域の解消を進めれば進めるほど、残る地域は不採算エリアの中でも不感地域解消に最も費用がかかり、採算の取れないエリアとなる。
伝送路コストは明らかになっていないが、通常の2倍、3倍、ひいては5倍にまで費用が拡大する見込みとされる。11年目以降、全額負担となるキャリアとしては大きな問題である。
現状、エリア外人口が少なくなっているため、国庫補助金額による無線システム普及支援事業(携帯電話等エリア整備事業)の予算は減少傾向にある。にも関わらず、残された不採算エリアを整備するには、これまで以上に伝送路費用がかかるため、追加予算措置が欠かせない状況にある。
こうした問題以外にも、10年間という限定された国の伝送路費用負担の撤廃、その他の省庁からの予算引き出しなど検討すべき課題は多い。
参考URL
携帯電話の基地局整備の在り方に関する研究会http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/mobil_bs/index.html
執筆:大門太郎
同研究会は、その一環として、山間部やトンネルなどにおける基地局整備がある。平時において、陸地と海上などに分類し、特に陸地では人の多い(住宅密集地や街中、地下鉄など)、少ない(山間部やトンネルなど)で区分している。
基本的に陸地ではキャリア主導のエリア整備が行われるが、山間部やトンネルなどではキャリア主導及び補助事業で基地局整備が行われる。一方、海上などでは衛星携帯電話サービスなど他の無線システムが利用可能であるため基地局整備は行われない。
実際に2005年度末に58万であったエリア外人口は、2012年度末には6万にまで縮小している。研究会の取り組みとともに、キャリアも確実な不採算エリア解消に努めてきた。
しかし、それでも6万のエリア外人口のため、現在も基地局整備の検討が進められるのだ。地方自治体は不感地域の解消を要望し、キャリアが不感地域の解消を担い、研究会が取りまとめを行っている。
実際の費用負担として、国や地方自治体、キャリアの負担割合は基地局と伝送路、世帯数で異なる。基地局に関しては、キャリアの負担は一切ないが、伝送路は国が10年間の伝送路利用料を半額程度負担し、11年目からはキャリアが全面負担する。こうした枠組みの中、基地局整備が進められていく。
表:基地局(鉄塔や局舎、無線機など)の費用負担
100世帯以上 100世帯未満
国 :1/2(50%) 2/3(66.7%)
都道府県:1/5(20%) 2/15(13.3%)
市町村 :3/10(30%) 1/5(20%)
表:伝送路の費用負担
100世帯以上 100世帯未満
国 :1/2(50%) 2/3(66.7%)
キャリア:1/2(50%) 1/3(33.3%)
※国は10年間の伝送路利用料を負担し、11年目からはキャリアが全額負担。
研究会を傍聴していて感じたのは、不感地域において、本当に携帯電話サービスが必要なのか、整備済みエリアにおける携帯電話サービスの利用実態はどうなのかといった現状把握の重要さである。
そして、何よりも重要な課題としては予算に行き着く。キャリアからの意見も予算面の問題が最も大きく、現行制度で不感地域の解消を進めれば進めるほど、残る地域は不採算エリアの中でも不感地域解消に最も費用がかかり、採算の取れないエリアとなる。
伝送路コストは明らかになっていないが、通常の2倍、3倍、ひいては5倍にまで費用が拡大する見込みとされる。11年目以降、全額負担となるキャリアとしては大きな問題である。
現状、エリア外人口が少なくなっているため、国庫補助金額による無線システム普及支援事業(携帯電話等エリア整備事業)の予算は減少傾向にある。にも関わらず、残された不採算エリアを整備するには、これまで以上に伝送路費用がかかるため、追加予算措置が欠かせない状況にある。
こうした問題以外にも、10年間という限定された国の伝送路費用負担の撤廃、その他の省庁からの予算引き出しなど検討すべき課題は多い。
参考URL
携帯電話の基地局整備の在り方に関する研究会http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/mobil_bs/index.html
執筆:大門太郎
2013年10月10日木曜日
『iPhone』戦国時代の競争構図① ドコモ参戦につき
1.NTTドコモ×iPhone
日本時間9月11日午前2時に開催されたアップルの発表会で、NTTドコモのロゴが映し出され、同社が初めてiPhoneを扱うことが全世界に配信された。
SBM(ソフトバンクモバイル)が2008年にiPhoneを発売して以来、NTTドコモから他社へのMNP(Mobile Number Portability)によるポートアウトは累計で350万回線以上(ドコモの契約全体の5%以上)となった。
特に2012年月の「iPhone5」発売後はMNPによる顧客の転出超過数ペースが以前の倍近い月15万件前後に拡大。2012年度の国内の携帯累積シェアは42%と、10年前を14ポイントも下回る水準まで落ちている。
日本時間9月11日午前2時に開催されたアップルの発表会で、NTTドコモのロゴが映し出され、同社が初めてiPhoneを扱うことが全世界に配信された。
SBM(ソフトバンクモバイル)が2008年にiPhoneを発売して以来、NTTドコモから他社へのMNP(Mobile Number Portability)によるポートアウトは累計で350万回線以上(ドコモの契約全体の5%以上)となった。
特に2012年月の「iPhone5」発売後はMNPによる顧客の転出超過数ペースが以前の倍近い月15万件前後に拡大。2012年度の国内の携帯累積シェアは42%と、10年前を14ポイントも下回る水準まで落ちている。
関係者のなかには、「この際、一度落ちるところまで行った方がいい」といった意地悪な意見が聞かれる一方で、その失速ペースは尋常ではない。
夏商戦ではiPhone対抗策として、販売促進費をソニーと韓国サムスン電子のスマホ2端末に集中投入する「ツートップ戦略」を打ち出したものの、状況は変わっていない。
では、iPhoneをドコモが扱うと、契約者が流出するのを止血できるのだろうか。事はそんな単純ではないだろう。
何故なら競合するKDDIとSBMは、ドコモがiPhoneを扱うことを想定して準備を進めてきたわけだし、販売ノウハウの面でも一日の長がある。そして、少なくとも現時点でアップルから満足できるレベルで端末量を仕入れられてるとも思えない。
しかし、今後も扱わないとするリスクと比較すれば、その下げ幅は時間が経過すれば効果が出てくるのではないだろうか。例えば、2013年9月にカンター・ジャパンが発表した調査では、『ドコモ契約者がキャリアを乗り換えた際に購入した機種は、66%がiPhone』だっとする結果を発表している。
2.ライバルではなく、iPhoneに敗れてきた
世界のスマートフォン市場を眺めると、そもそも日本はアップルの母国である米国と並んでiPhoneのブランド意識が非常に高い。それは、地位別のモバイルOSの普及状況からも読み取ることができる。
弊社では、定期的にモバイルOSのアップデート集計を行っているが、世界的なAndroid優位の状況とは異なり、国内市場では両者(iOS vs Android)の勢力は拮抗している。
今回、ドコモがiPhoneを取り扱うことで、同OSの勢力は更に上昇する可能性が高い。ドコモの13年度スマホ販売目標は1,600万台としてるが、仮にiPhoneの構成比が3割で両社が合意したとすると、ドコモの最低限の販売ノルマは480万台となり、それが新規で上積みされることになる。
2013年9月には、インプレスビジネスメディアのシンクタンク部門であるインターネットメディア総合研究所が「スマートフォンユーザー満足度調査2013」の結果を発表したが、そのなかで現在主に利用しているスマートフォンの総合満足度は、SBMが54.1%でトップとなり、以下、auが46.9%、ドコモが43.8%という順になったとしている。
SBMがトップで、ドコモの満足度が最も低くなっていることに違和感を覚える方もいるかも知れないが、その理由は単純明快、iPhone取り扱い有無の差ということに尽きるとしている。
同調査の項目別の評価では、「本体」「月々の料金」「独自サービス」はSBMが1位、「ネットワーク」「サポート・アフターケア」はドコモが1位となった。ただし、「ネットワーク」についてはLTEに限定した場合は、SBMが1位であった。一方、3キャリア平均で59.4%と高い満足度の「本体」に対し、「ネットワーク」「サポート・アフターケア」「独自サービス」の満足度は3割程度、「月々の料金」は16.9%と低い。
つまり、iPhone比率が最も高いSBMが満足度も最も高いというだけで、この点からもドコモはライバルに負けたというよりも、iPhoneにやられて来たということが言える。
では、iPhoneをドコモが扱うと、契約者が流出するのを止血できるのだろうか。事はそんな単純ではないだろう。
何故なら競合するKDDIとSBMは、ドコモがiPhoneを扱うことを想定して準備を進めてきたわけだし、販売ノウハウの面でも一日の長がある。そして、少なくとも現時点でアップルから満足できるレベルで端末量を仕入れられてるとも思えない。
しかし、今後も扱わないとするリスクと比較すれば、その下げ幅は時間が経過すれば効果が出てくるのではないだろうか。例えば、2013年9月にカンター・ジャパンが発表した調査では、『ドコモ契約者がキャリアを乗り換えた際に購入した機種は、66%がiPhone』だっとする結果を発表している。
2.ライバルではなく、iPhoneに敗れてきた
世界のスマートフォン市場を眺めると、そもそも日本はアップルの母国である米国と並んでiPhoneのブランド意識が非常に高い。それは、地位別のモバイルOSの普及状況からも読み取ることができる。
弊社では、定期的にモバイルOSのアップデート集計を行っているが、世界的なAndroid優位の状況とは異なり、国内市場では両者(iOS vs Android)の勢力は拮抗している。
今回、ドコモがiPhoneを取り扱うことで、同OSの勢力は更に上昇する可能性が高い。ドコモの13年度スマホ販売目標は1,600万台としてるが、仮にiPhoneの構成比が3割で両社が合意したとすると、ドコモの最低限の販売ノルマは480万台となり、それが新規で上積みされることになる。
2013年9月には、インプレスビジネスメディアのシンクタンク部門であるインターネットメディア総合研究所が「スマートフォンユーザー満足度調査2013」の結果を発表したが、そのなかで現在主に利用しているスマートフォンの総合満足度は、SBMが54.1%でトップとなり、以下、auが46.9%、ドコモが43.8%という順になったとしている。
SBMがトップで、ドコモの満足度が最も低くなっていることに違和感を覚える方もいるかも知れないが、その理由は単純明快、iPhone取り扱い有無の差ということに尽きるとしている。
同調査の項目別の評価では、「本体」「月々の料金」「独自サービス」はSBMが1位、「ネットワーク」「サポート・アフターケア」はドコモが1位となった。ただし、「ネットワーク」についてはLTEに限定した場合は、SBMが1位であった。一方、3キャリア平均で59.4%と高い満足度の「本体」に対し、「ネットワーク」「サポート・アフターケア」「独自サービス」の満足度は3割程度、「月々の料金」は16.9%と低い。
つまり、iPhone比率が最も高いSBMが満足度も最も高いというだけで、この点からもドコモはライバルに負けたというよりも、iPhoneにやられて来たということが言える。
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