2010年10月31日日曜日

Column:スマートフォンへの踏み込み具合が差となって表れた携帯3社の中間決算

 携帯大手3社の中間決算が出揃った。2010年度2Qの結果は下記の通り。
        
 -NTTドコモ:減収増益/純増数 81万/ARPU5,200円(前年同期比-220円)
 -KDDI:減収減益/純増数 42万/ARPU5,100円(前年同期比-500円)
 -ソフトバンク:増収増益/純増数160万/ARPU4,300円(前年同期比+150円)

 2008年よりiPhoneを投入し、スマートフォン時代をリードするソフトバンクは、純増数×単価の両面で増収増益を記録。移動体通信事業の営業収益は、前年同期比13%増の9,400億4,400万円、営業利益は前年同期比57.3%増2,072億300万円だった。純増数では前年同期比の68万から160万へ大きく増加させ、ARPUは4,300円と前四半期から150円増加した。なかでも特筆すべきは、データARPUが前年同期より300円増加し、データARPUと音声ARPUが逆転したという点である。今後10年以内にウィルコムの加入者を含め(合計で約2,800万)、ソフトバンクモバイルで4000万回線の獲得を目指す方針が明らかにされた。

 これに対してドコモは、前年同期は減収減益だったが、今期は減収増益を確保するなど、回復基調へ転じつつある。営業収益は2兆1,382億円で同0.4%減、営業利益は5,315億円で同9.5%増だった。最大の加入者数を抱えるだけに、構造的に純増競争では不利であるものの、そこはリテンション対策の強化で純増数を確保し、動画や電子書籍サービスを強化することで、伸びシロがまだある定額制(加入率58%)への移行を推し進めARPU上昇を狙っている。下期は、「スマートフォンのラインアップ拡充や定額制ユーザーの拡大、フィーチャーフォンユーザーのパケット利用の促進、モバイルW-Fiルータや通信対応フォトフレームなどの新デバイス投入によって、更なるデータARPUの向上」を目指す。そして新たな取り組みとして電子書籍やカーナビサービス、LTEの商用サービスにも注力する考えだ。

 KDDIは、前年度の純増数(2009年度上半期39万)と比較すると今期は42万と増加傾向にはあるとは言え、依然ライバルとの差は大きい。移動通信事業の営業収益は前年同期比2.4%減の1兆3,052億円、営業利益は同9.0%減の2,477億円の減収減益だった。取り組みが遅れたスマートフォン投入やシンプルコースへの移行拡大にともなう音声ARPU減が続いており、今期は前年同期比500円のマイナスと最も大きい下げ幅を記録した。下期は、新社長の体制のもと、「スマートフォンの強化と電子ブックリーダー、Wi-Fiルーター、タブレット型端末等の新たなデバイスを積極投入」「データ利用推進、データARPU向上に向けた取り組みのさらなる推進」で失地回復を狙う。
 
 各社の決算を総括すると、今回はスマートフォンへの踏み込み具合の差が大きく結果に反映したカタチとなった。ところで、スマートフォンが業績に影響を与える状況というのは国内だけの話ではない。ノキアなどグローバル端末ベンダーもスマートフォンの行方が業績を左右しており、今や世界的な流れとなっている。個人的には、LTE商用化を前に、こうした話題がここまで脇に追いやられた感のある状況に、いささか寂しさを感じてしまうのだが。

 自らの土俵にライバルを引き込むソフトバンクの戦い方に、各社がどのように挑んで行くのか、2010年度下期から次世代モバイルネットワーク時代の新たな競争の幕が開こうとしている。

2010年10月28日木曜日

Column:AP不要で機器間をWiFiで接続する「Wi-Fi Direct」

 Wi-Fi Allianceは10月25日、Wi-Fi対応機器同士をダイレクトに接続するWi-Fi新仕様「Wi-Fi Direct」の製品認証開始を発表した。第一弾として、5製品が「Wi-Fi CERTIFIED Wi-Fi Direct」として認定される。

 PC、携帯電話、デジカメ、プリンタなどから、キーボードなどWi-Fiが搭載されている機器(IEEE 802.11 a/g/n)が対象になり、通信速度や通信範囲はWi-Fiと同じで、セキュリティ技術「WPA2」をサポートする。

 「Wi-Fi Direct」が注目される点が、どちらか一方の機器がWi-Fi Directに対応していれば、もう一方は非対応でも通信できるということ。

 これによって、下記の例のような新アプリケーションが期待される。
 ・デジタルカメラとプリンター間で写真を転送し印刷する。
 ・携帯電話内の写真をテレビに転送し表示する。
 ・PCとiPhoneやiPod touch間でデータ同期を行う。
 更に、デザリング機能が使えるようになれば、インターネットを搭載したPCを介して例えばiPod touchからネットに接続するといった使い方も可能となる。

 同技術に似たワイヤレス技術としてBluetoothや無線LANルーター、アドホック無線接続を使えば似たようなことは実現可能だ。

 しかし
 ・Bluetoothは転送速度が遅い、接続距離が短い
 ・無線LANルーター、アドホック無線接続は、接続設定が手間
 といったデメリットがある。

 Wi-Fi Allianceによると、2010年に8200万台のWi-Fi対応家電製品と2億1600万台のWi-Fi対応ハンドセットが出荷され、2014年までWi-Fi対応機器は年率26%で増加していくと予測している。特に近年は携帯電話へのWi-Fi搭載が急増しており、2009年に出荷されたWi-Fi対応機器の4分の1は携帯電話だった。

 Wi-Fiと携帯の融合化によって、新たな無線アプリケーションが今後創出されていきそうだ。

2010年10月26日火曜日

Column:3.9Gの本格競争前に早くも選定された4Gの技術規格

 国連機関の国際電気通信連合(ITU)は10月22日に4Gの携帯電話規格に「LTE」と「WiMAX」の両方式の発展型を採用することを決定した。ITUは2011年中に2つの規格の詳細を定め、2012年に正式に勧告を出すこととなっている。

 4Gは新幹線などで高速移動中でも通常の光ファイバーと同レベルの最大毎秒100Mbpsで受信でき、低速時には最大1Gbpsの超高速通信も可能とされている。

 実用化の時期に関しては、2015年以降と見られているが、国内ではLTEの普及を当面の課題と位置づけており、本格的な4G時代は2020年前後までずれ込むとの見方もある。

 LTEの展開では、今年12月にドコモが商用サービスを開始し、2012年7月にはソフトバンクモバイルが、12月にはKDDIがそれぞれ追随する予定だ。ドコモ以外はLTEの展開が2年程度遅れる訳だが、その間ソフトバンクとイー・モバイルは、現行設備を最大限に活かし下り最大42Mbpsを実現する「DC-HSDPA」で、そしてKDDIは下り最大9.2Mbps/上り最大5.5Mbpsの通信が可能となるEV-DOマルチキャリアやUQコミュニケーションズのモバイルWiMAXで対抗する構えだ。

 高速通信が「売り」のLTEだが、当初のデータ通信速度は、最大75Mbpsとなっているものの、これは一部屋内エリア限定で、屋外では37.5Mbps程度とされている。つまり、LTEでドコモが先行したとしても、通信速度では他社もあの手この手で十分に対応可能と言うことになる。

 まさに、これから3.9G時代の戦いが始まろうというタイミングにあり、4Gはその先ということになる。しかしながら「LTE」VS「モバイルWiMAX」という観点からは、今世界で繰り広げられる技術規格でどちらが大勢を占めるかということが、4G本格化の際にデファクトを勝ち取るために大切な要件だ。

 その意味から言えば、現時点では採用している通信キャリア数、対応端末などから、LTEが圧倒的に有利なポジションを占めている。LTEは国内キャリア4社全てが採用する他、世界的にも米国のAT&Tやベライゾンワイヤレス、英ボーダフォンなどの大手が採用を表明済みだ。

 これに対してWiMAX陣営では、国内ではKDDI系のUQコミュニケーションズが採用するが、海外では大手通信会社の採用が少なく、一部通信会社ではLTEへの乗り換えを示唆するような動きも出ている。

 劣勢を挽回するため、WiMAXは2012年に下り最大330Mbpsの「WiMAX2」を投入することで、高速化競争をリードしたい構えだ。

 更にここへきて、上記2規格に加え、同じLTEでも送信と受信で同じ周波数を使う「TD-LTE」と呼ぶ規格も勢力を拡大している。中国最大手のチャイナモバイルのほか、インドでも一部の通信事業者が採用を表明しており、将来的に一大勢力を築く可能性が高い。
 
 思いのほか早い段階で4Gの規格が決まったことで、今後機器の開発競争が激化することは必至の情勢で、グローバル市場を見据えた戦略策定が本格化していきそうだ。

2010年10月25日月曜日

Column:ライバルの本格参戦を前に布陣の再構築迫られている?iPad陣営

 ここ数日、iPadが想定された数よりも販売量が達していないのではないかと思わせる複数のニュースが出てきている。

 まず、意外だったのがアップルの2010年7月-9月期のiPadの販売量である。同社の決算資料によると420万だったが、これは大方のアナリストが予想していた500万台超えを大きく下回るスコアだった。

 国内でも情勢は似ている。アップル及びソフトバンクは、iPadの販売量について一切明らかにしていないので、あくまで推測の域を出ないが、複数の販売店によると発売当初こそ大きく前月を上回ってきたものの、最近ではカーブは下降線を辿り始めているとしている。

 私の周りで最近iPadを購入した複数の人も、店頭で「在庫僅少」や「在庫無し」と張り紙に書かれてあるので取り寄せ覚悟で購入したい旨を伝えると、奥から出てきたという話をしていた。

 これまでアップルとの蜜月でiPhoneに続きiPadの販売は、ソフトバンクが独占的に取り扱ってきたが、最近IIJがiPad(無線LAN搭載版)の代理店として新たに認定を受け、今後ドコモの3Gが搭載されたモバイルルータとセット販売を行うとするニュースが流れた。

 また、ソフトバンクもiPadの販売店舗を10月より全国98店舗のソフトバンクショップへ広げるとしている。恒例のソフトバンクが開催した法人向けイベントで孫社長のメインテーマはiPadだった。

iPadが売れすぎて嬉しい報告だったのか、それとも不振を目のあたりにして営業の尻を叩く必要があったのだろうか?

 ドコモやKDDIなど各社がタブレット端末を投入し、まさに顧客争奪戦が始まろうする前からiPadが失速してはどうしようもない。iPadサイドにとっては、布陣の再構築を迫られているというところなのかも知れない。

2010年10月18日月曜日

Research Note:携帯キャリアの新たな収益モデルとしても注目集める電子書籍サービス

 PM:あるMVNOキャリアとの定例ミーティングにて。

 スマートフォンや「iPad」などタブレット端末の普及とともに、2010年度は電子書籍サービス元年となりそうだ。

 「iPhone」「iPad」を擁するソフトバンクが、6月より30以上の雑誌や新聞を定額で読むことができるコンテンツ配信サービス「ビューン」を開始したが、その後1ヵ月遅れでKDDIがソニー、凸版印刷、朝日新聞社らと4社で、更に1ヵ月遅れでドコモが大日本印刷とそれぞれ電子書籍配信事業に関する事業企画会社を立ち上げると発表した。

 ドコモはXperiaなどのスマートフォン向け電子書籍配信サービスの提供に向けて、10月下旬~12月下旬にかけてトライアルサービスを開始する。コンテンツは、雑誌や書籍、コミック、写真集など約50タイトルが用意され、いずれもトライアル期間中は無料で提供される。またKDDIは、12月にも電子書店を開設する計画だ。

 両社の電子書籍サービスで、ポイントとなるのが大日本印刷と凸版印刷という大手印刷会社2社の存在だろう。これらは電子書籍事業の環境整備について協調していくことで合意しており、2010年7月には両社を発起人とする「電子出版制作・流通協議会」が設立されている。

 同協議会では、様々な端末に対応可能な「中間フォーマット」の標準化などを行う予定となっており、これによりドコモとKDDI向けにコンテンツ開発の面でやりやすくなると見られている。

 一方、MVNOキャリアの担当者は、電子書籍を巡る動きのなかで、携帯キャリアの収益モデルに注目しているとする。

 同サービスでは、先行するアップルがiTunesの課金システムを利用する際に、売上金額の30%を手数料として得ているとされるが、これに対してドコモサイドでは、「少し高いのでは」としている。

 同社では、「利用者に通信料金を意識させない課金モデルはユーザーにとっての利便性を考えると非常に大事な点。解決すべきことが多いが重要事項として検討している」とコメント、従来型の基本料+通信料金という収益モデルを適用しない可能性もあるとしている。

 また、KDDIサイドは、書籍代は月々の通信料金と一緒に請求。専用端末の通信機能はデータ取り込みの際にしか使わないため、通信料金には数百円程度の定額制を導入する公算が大きいとしている。KDDIは利用者からの通信料収入に加え、出版社からも手数料を得るとされる。 

 おそらく、収益モデルについては、成功を占うキモになるところもでもあり、ギリギリまで検討が行われることになるだろう。MVNOキャリアの担当者としても仮に新たな収益モデルが導入されるということになれば、収益モデルがネックとなり普及が進みにくかった分野が花開くきっかけにもなり、その影響は決して小さくないとしている。その意味でも中身が気になっているようだ。

2010年10月17日日曜日

Column:国内でも導入進む?VoIP搭載の動き

1.KDDI‘禁断のアプリ’はスカイプ?
 日経新聞の報道によると、KDDIが11月下旬に発売する「IS03」に‘禁断のアプリ’と自ら評したスカイプが搭載されるという。

 以前より噂されてきた機能であり、目新しさよりも「ついにきたか」と思われた方が多いかも知れないが、18日に同社は新製品の発表会が予定されており、明らかにされる可能性がある。

 以下、最近の携帯電話へのスカイプ搭載の動向について検証していきたい。

 国内の携帯キャリアでは、既にスマートフォンのWiFiを使ったスカイプは広く利用されているが、報道で注目されるのは3Gという携帯電話網を使ってサービスが提供されるという点だ。

 通信料収入の半分を占める音声サービスで、スカイプが利用されるようになれば、減少の一途を辿っているARPUへの影響は避けられない。

 しかし、(仮にKDDIがスカイプを導入するとすれば、)それを覚悟しても導入するところに、KDDIの苦しさを感なくもないが、その一方で既に音声定額サービスの利用が広く普及していることから、影響は限定的という判断もあると推測されること。

 更には、長いタームで市場や技術のトレンドを俯瞰すれば、スカイプ(=VoIP)の携帯導入の道は避けようがなく、それならいち早く導入し、その分野で先行するほうが得策という見方もできる。

2.スマートフォン登場がスカイプ普及の背景
 もとより、インターネット電話の最大手であるスカイプの目標は、携帯電話へ搭載されることにあった。キックオフは、「3GSM World Congress 2006」において発表された戦略発表からだろう。

 その席で同社は、全世界で3Gサービスを提供しているHutchison 3グループとの提携を明らかにし、オーストリア,オーストラリア,香港,スウェーデン,英国,イタリアで実証試験を実施し,2006年中には正式にサービスを開始するとしたのだ。

 その後、2007年10月にはスカイプ携帯電話「3 Skypephone」を発売したものの、その他の携帯キャリアからはスカイプ導入は自社の通信料収入を破壊する、まさに‘禁断のアプリ’として総スカン状態だった。

 潮目が変わるきっかけとなったのが、スマーフォンの登場である。2009年2月、ノキアは携帯電話にSkype機能を組み込むことで提携し、第一号として2009年第3四半期よりS60搭載のNseriesに搭載すると発表した。

 そして、これまでスカイプ搭載に背を向けてきた携帯キャリアでも、2010年10月に米国AT&Tが、iPhone向けの3G携帯電話ネットワークをインターネット電話アプリケーションに開放すると発表したのに続き、2010年3月には米国最大の携帯キャリアであるベライゾンワイヤレスがスカイプと提携し、iPhenoを除く各種スマートフォンでスカイプアプリを搭載することとなった。

 3.iPhoneへのスカイプ搭載は2転3転
 世界で最も普及しているiPhoneへのスカイプ搭載は、先に述べている通り、米国AT&TがiPhone向けの3G携帯電話ネットワークをインターネット電話アプリケーションに開放すると発表したものの、その後頓挫している。

 スカイプは2010年7月にiPhone向け「スカイプ」アプリで3G回線を使った通話に課金する計画を示していたが、この決定をマイナーアップデート(新バージョンは2.0.1)で取り消してしまったのだ。

 背景には、長く続くスカイプとAT&Tとの確執が伝えられている。しかし、その後米国では米規制当局の連邦通信委員会(FCC)が調査に乗り出しており、早晩解決する可能性もある。

 いずれにしても、Hutchison 3のような新興キャリアではなく、米国の大手携帯キャリアで搭載の動きがはじまった意味は大きく、スカイプにとっては前進であった。
 
 4.似て非なる類似サービスは既に撤退
 今回、仮にKDDIがスカイプ搭載を加速させていけば、間違いなくライバル各社も追随してくるものと推測される。

 データ通信上でVoIPが提供されることで、常時接続が実現し、友人や同僚のオンライン接続状況を知ることができるなど、これまでの音声サービスにないサービスが開発される可能性もある。

 その一方で、機能的には異なるものの、内容的には似たトランシーバ型の音声定額サービスをドコモでは「プッシュトーク」、KDDIでは「Hello Messenger」という名称で投入したものの、共にサービス停止に追い込まれた歴史を持っている。

 導入以上に、サービスイン後の利用度が気になるところではある。

2010年10月14日木曜日

Column:動画サービス本番へ向けコンテンツ&技術プラットフォームで準備進む各社

 先日、ドコモが米パケットビデオを完全買収した旨のニュースが発表された。パケットビデオは、携帯電話向けのマルチメディアソフトなどの技術を保有する企業で、ドコモのFOMA端末90機種以上で、パケットビデオの製品「CORE Player」が搭載されている。

 ドコモは、2009年5月から有料の動画配信サービス「BeeTV」を提供しており、月額350円というリーズナブルな値付けから会員数は、2010年6月時点で125万に達するなど、これまで『不毛の地』とも揶揄されてきた動画市場で着実な成果を挙げている。

 今回のパケットビデオ買収についても、更なる動画サービス強化へ向けコア技術を確保しておきたいという狙いがあったものと推測される。

 しかし、こうした動画サービス強化の流れは、当然だがドコモだけに見られるわけではない。

 iPhone/ipadを擁するソフトバンクでは、以前よりお笑い動画コンテスト「S-1バトル」を提供しているが、2010年に入ってからだけでも8月から無料動画が楽しめるiPhoneアプリ「選べるかんたん動画2010」やセルラー網向けではないが、WiFiネット専用で「ケータイWi-Fiチャンネル」も用意されている。

 そして、5月には米UstreamとUSTREAM Asiaを設立することで合意し、iPhoneでUstreamの中継を視聴できるアプリや、中継を配信するためのアプリの提供も予定されている。

 コンテンツと技術プラットフォームの両面から着々と準備を進めている2社に比較すると、KDDIの動画事業が見えにくい印象を受ける。しかし、KDDIにはJCOMという隠し玉があり、今後同社が持つスポーツや音楽、アニメなど豊富なコンテンツを生かした動画サービスが提供されるようになれば、十分に勝算もありそうだ。もともとEZチャンネルやEZムービーなど、動画サービスでは先行してきたが、ここ数年は固定網との連携などやや異なる路線を志向してきた。

 各社の動画サービス強化へ向けたアプローチは、それぞれ異なるものの、課題であるARPU拡大の切り札となること、無線ブロードバンドの次世代モバイルサービスが控えているだけに一層注力されていく分野であることは間違いない。

2010年10月12日火曜日

Research Note:LTE商用化へ向けモバイルルーター「BF-01B」を大判振る舞いするドコモ

PM:ある量販店関係者との定例ミーティングにて。

 ドコモがモバイルWi-Fiルータ「BF-01B」を9月25日より発売した。同端末はもともと2010年6月24日に発売されたバッファロー製「ポータブルWi-Fi」を、今回ドコモブランド商品としてドコモ取扱店で販売するもの。

 ポータブルゲーム機やタブレット端末などのWi-Fi対応機器をFOMA網で利用できる。公衆無線LANにも対応しているほか、LAN端子を備えた同梱の専用クレードルを用いることで、自宅のブロードバンド回線からもインターネットを利用できるようになっている。

 そして、同端末の特徴が、最適な無線方式を利用者に意識させることなく自動で選択する「コグニティブ無線」機能を搭載していることだ。連続通信時間は6時間、連続待受時間は30時間。

 ドコモでは「BF-01B」の発売に合わせて、定額データプラン新規契約者の月額利用料の上限を1年間1,575円割引する料金割引キャンペーンの内容を拡充し、9月30日までの受付期間を12月31日まで引き伸ばす。さらに、10月1日から12月31日までに、ドコモのプロバイダオプション公衆無線LANサービスを新規で申し込んだユーザーの月額使用料315円を1年間無料にする。

 このところ店頭でのモバイルルーターの売れ行きが好調で、店舗によってはデータ通信カードを凌ぐ人気となっている。そして、今回ドコモがキャンペーンを12月まで延長した背景には、LTE商用化(12月)まで引き伸ばし、加入者拡大ペースを切らしたくないという思惑が見え隠れする。

 その関係者によると既に店頭では、「BF-01B」発売に合わせ新規契約向け端末代金0円で、更にキャッシュバック1万円もついてくるというのだから、同社の力の入れ具合が伺い知れる。

2010年10月9日土曜日

Column:秋冬端末発表前に吹き荒れるiPhone/ipad旋風

 10月7日、TCAより9月末の携帯電話・PHSの事業者別契約数が発表された。

 同月の純増数は60万1,900で、そのうちの55%をソフトバンクモバイル(SBM)が獲得した。

 3月末の2Gサービス解約者増加に伴い一時的にトップをドコモに奪うも2010年度に入ってからは、他を全く寄せつけない強さを見せている。

 なかでも2010年度の状況は、これまでといくつの点で異なっている。具体的には以下のような点だ。

①市場は年々新規のパイが減少してきているにも関わらず、2010年度の半期純増数は322万と、前年同期の215万を大幅に上回っている。
②市場を牽引しているのはSBMで、同社だけで毎月20万以上の純増を獲得している。
③SBMの純増のうち、最近顕著なのがMNPで流れてくる顧客数が多い。ここ3ヶ月は7万/月以上。
④ドコモはその規模から以前よりMNPの流出超が続いているが、2010年度に入ってからはKDDIも同じ状況に陥っている。
⑤KDDIの純増の牽引役は、これまでEZWebを搭載したフィーチャーフォンだった。しかし、2010年度に入ってから同タイプの月純増数までマイナスに転じている。
⑥これまコンスタントに純増を獲得してきたイー・モバイルの月別純増数のペースがやや陰りが見える。

 つまり、市場ではSBMのiPhone/ipad旋風が吹き荒れており、ライバル各社はその影響をもろに受けている格好だ。

 下期から各社はスマートフォン/タブレット端末の一斉投入を計画しているが、強い防波堤やタイフーンとなれるか、秋冬端末の発表は間もなくだ。

2010年10月4日月曜日

Reserch Note:ドコモ公衆無線LAN無料化に観る地殻変動の予感

 AM:ある端末ベンダーとの定例ミーティングにて。

 ドコモが10月より公衆無線LANサービスの月額使用料が1年間無料になるキャンペーンをスタートした。

 12月末までの新規契約者が対象で、同社のインターネット接続サービス「mopera U」のオプションサービスとして提供している「U『公衆無線LAN』コース」の月額使用料を1年間無料にするというもので、対象は期間内の新規契約者となっている。

 ドコモの公衆無線LANサービス「Mzone」は全国に3,100カ所以上設置されており、駅やカフェ、ファストフード店などで、ベストエフォートの最大54Mbpsで通信が可能となっている。

 スマートフォンやタブレット端末のラインナップが一気に揃う秋冬端末の発表を前に、携帯より高速な公衆無線LAN網を開放し、加入者拡大につなげたいとい狙いがある反面、通常の携帯端末の数倍とされる大容量のトラフックをさばくには携帯網以外のオフロード先を予め確保しておく必要性に迫られているという事情もあるようにも思える。

 いずれにしてもスマートフォン時代を迎え、通信ネットワークは無線LANと同レベルのスピードを叩き出す3.9Gへスイッチしていくにせよ、もはや携帯キャリアにとってセルラー網だけに頼るインフラ戦略は限界に来ているということだろう。

 そして、それはiPhone/iPadのヒットで加速度的にトラフィック収容量が増加しているソフトバンクが新規契約者にFONのWiFiルーターを無料配布していることからも伺い知ることができる。

 ところで端末のトレンドが、いわゆるガラケーと言われる携帯キャリア仕様から国際標準のスマートフォンやタブレットへ移っていくことは、ARPUと言う側面からは、今後も収益拡大の可能性という意味で大きい。しかし、その反面これまでのiモードのようなプラットフォームの主導権は携帯キャリアが取りにくくなっていくことは間違いない。

 ある端末ベンダーの担当者によると、「国内で投入されるスマートフォンは、国内限定仕様でないから社内で了解が取れた」とコメントしている。

 少なからず、地殻変動が進んでいきそうだ。

2010年10月1日金曜日

Reserch Note:MVNO時代に改めて問われる顧客保護

 AM:ある通信キャリアとの定例ミーティングにて。

 通信キャリアから回線を借り、自ら仮想通信キャリアとなって携帯電話サービスを行うMVNOがはじまって約10年が経ったが、当初から危惧されてきた問題があった。

 それが、サービスを提供するキャリア(MVNOキャリア)が何らかの理由でできなくなった場合の顧客保護である。周知の通り、ライフラインの一つである通信キャリアには、一般民間企業のように収益性の追求以外に、高い公共性が求められる。

 市場の活性化を狙った総務省は、2007年2月半ば通信キャリアの反対を押し切る形で「MVNOに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン」を発表。待ち構えていた新規参入企業者に扉を開いた。

 その後、コンサル会社や既にMVNOサービスを提供していた企業、そして小社のようなところにMVNOの相談が持ち込まれ、一時は大きな勢力になるかと期待させた。

 しかし、現時点で総務省が目論んだほどMVNO加入者が獲得できたかというと、それはないだろう。ざっと推計しても数十万のレベルと思われる。

 そんな中途半端な加入者しか集まらない状況下にあるMVNOキャリアにとって、オペレーションコストをペイするのが困難であることは容易に察しがつき、行き着く先は経営破綻となる。

 先日、JALケータイやGIANTSケータイをやっていたインフォニックスが民事再生を申請しKDDIへ譲渡すると発表した。また、先に会社更生法を申請したウィルコムは10月より携帯電話サービスをドコモから支援を受けているソフトバンクへ切り替える。

 こうした事態は高い公共性が求められるとは言え、民間企業である以上致し方ないことではある。しかし、1つ言えることは、全てはキャリア都合で起きているということだ。少なくとも、その点に関しては利用者には全く関係がないのである。

 通信キャリア担当者の「MVNOキャリアの後始末は結局、回線を提供している通信キャリア(=MNO)が尻拭いするしかないということです」という言葉が妙に説得力を感じた。