2011年12月27日火曜日

Reserch Note:取材先で聞いたキャリア各社のネットワーク逼迫とLTE展開
ようやく、「携帯電話基地局市場及び周辺部材市場の現状と将来予測」が発刊しました。制作が遅れ、ご予約いただいておりました関係各位には大変ご迷惑をおかけしましたこと、深くお詫びいたします。

さて、今回、調査レポートを制作する上で、基地局に関連するベンダ各社を中心に取材活動を行い、さまざまな“生の声”を伺うことができました。基地局市場自体はモバイルキャリア各社が年間1兆5,000億円もの設備投資額を投下する中、1兆円程度を占める大きな市場になっています。

これらの市場には無線機やアンテナ、コネクタ、電源、蓄電池ベンダ、基地局工事を担当するエンジニアリング会社が参入し、キャリアのインフラ構築に一役買っています。

携帯電話基地局市場及び周辺部材市場の現状と将来予測を制作するにあたり、できる限り、調査レポートに“生の声”を盛り込みましたが、それでも掲載しきれなかった部分があります。それらの中で今回は携帯電話ネットワークの逼迫やKDDI(au)のLTE展開などを取り上げてみます。

携帯電話ネットワークの逼迫に関しては、ユーザ数の多いNTTドコモが逼迫しているといった声や、「iPhone」ユーザ増のソフトバンクモバイルが最も逼迫しているという声がありました。KDDI(au)のネットワーク逼迫については声があがらず、スマートフォンへの移行が遅れた結果、ベンダ各社はKDDI(au)のトラヒックが他キャリアに比べ、まだ余裕があるとみているのでしょう。

確かに現在のネットワークの逼迫やトラヒック急増は、キャリア各社によるフィーチャーフォンからスマートフォンへの移行が大きな要因とされています。しかし、携帯電話サービスは限られた周波数帯を利用するため、今後はユーザにも配慮が必要となるかもしれません。そのため将来的には節電ならぬ、節網(節ネットワーク)の考え方も登場することでしょう。

一方、KDDI(au)のLTE展開については、ソフトバンクモバイルが2012年中の開始とやや不明確ですが、現状ではKDDI(au)の2012年12月開始が最後発となる見込みです。KDDI(au)自体はロケットスタートを目指すといっていますが、実際にはLTE展開が順調に進んでいないのではないかという声も聞きました。

総務省総合通信基盤局の「無線局情報検索(2011年11月12日時点)」において、KDDI(au)は800MHz帯で関東エリア829局、九州エリア599局、東海エリア486局となっています。九州エリアでの基地局が多いため、こちらでKDDI(au)はLTE試験を行っているのではというベンダもいました。

また、NTTドコモは明確なLTEエリア展開計画を公表していますが、他キャリアに関しては今一つ不透明な状態です。そのためKDDI(au)はまだ、LTEエリア展開に迷いがあるのではと勘ぐる声もありました。LTEサービスはキャリア各社にとって、既存3Gサービスに代わる将来の基盤サービスとなる重要なネットワークです。

自社保有帯域すべてへのLTE化を前倒しし、早期にLTEへユーザを移行させたいNTTドコモ、LTEよりもiPhoneのトラヒック分散が課題のソフトバンクモバイル、EV-DO Advancedを導入しつつLTEのロケットスタートを狙うKDDI(au)。今後の各社のLTE展開に目が離せません。

執筆:大門太郎

関連資料
「2015年度における携帯電話市場の動向と予測」
~キャリアの視点から2015年度の携帯電話市場を総合的に分析~
http://www.mca.co.jp/pay_contents/FormMail/forecast2015.html

「携帯電話基地局市場及び周辺部材市場の現状と将来予測」
~基地局市場をキャリア・メーカー・エンジニアリング会社等多角的な視点からトータルに分析~http://www.mca.co.jp/pay_contents/FormMail/mobileBasement&PartsMarket2011.html

モバイル-IT調査レポート「IT Forcaste Report」
http://www.mca.co.jp/ifr/top.htm

2011年12月22日木曜日

Column:急速に広がっていくXiエリア

NTTドコモがLTEサービス「Xi(クロッシィ)」のエリア拡大を積極的に進めていま
す。当初計画を前倒しし、2010年度に約1,100局(人口カバー率約8%)であった基
地局数を、2014年度には約50,000局(同約98%)にまで拡大する計画です。当初、
2014年度に約35,000局(同約70%)であったため、約15,000局の前倒しとなり、NTT
ドコモのXi移行の本気度が伺えます。

自社保有のあらゆる帯域でLTE化を進めるNTTドコモは2GHz帯に続き、800M/1.5GHz
帯でも開始させ、1.7GHz帯へも拡大を図る計画です。さらに新周波数帯として、割
り当てが予定されている700MHz帯も視野に入れているようです。

WiMAXのUQコミュニケーションズを傘下に持つKDDI(au)、AXGPのWireless City
Planningをグループ会社に持つソフトバンクモバイルに比べ、NTTドコモにはNTTグ
ループのWi-Fiのみとなります。そのためNTTドコモは周波数利用効率の高いLTEへの
移行を促進させることでトラヒックの分散を図っていく考えなのでしょう。

また、私事ですが、実は2011年11月から「ARROWS Tab LTE F-01D」のモニターとな
り、使用感などを試させていただいています。現状、ARROWS Tab LTE F-01Dは通勤
時のお供、子どもたちのおもちゃとして、大活躍しています。

Xiエリアの状況としては、さすがに山手線圏内はXiエリアとして、LTEでの通信が可
能ですが、中央線に乗り換え、都心から離れていくに従い、3Gマークの表示に切り
替わります。さらに自宅は2012年2月末までの拡大予定エリアに入っており、残念な
がら今はまだ3Gでの「FOMA」エリアになっています。

通信速度に関して、Xi利用時には申し分ないのですが、FOMAに移り変わった際にXi
利用時との速度差を大きく感じます。自宅で「YouTube」を観るにしても、FOMAでは
通信が滞り、観るに耐えない状況です。これらはいずれXiエリアの拡大に伴って解
消されていく見込みですが、早期的なXiエリア展開が望まれます。

なお、NTTドコモのXi向け設備投資やエリア展開に関しては、「携帯電話基地局市場
及び周辺部材市場の現状と将来予測」に詳しく掲載しています。ご興味がございま
したら、ぜひ、弊社サイトまで!!

執筆:大門太郎
関連資料
携帯電話基地局市場及び周辺部材市場の現状と将来予測
~基地局市場をキャリア・メーカー・エンジニアリング会社等多角的な視点から
トータルに分析~


モバイル-IT調査レポート「IT Forcaste Report」
http://www.mca.co.jp/ifr/top.htm

2011年3月10日木曜日

Column:基地局数&周波数帯で問われる携帯キャリアの競争力

 現在、弊社では「携帯電話基地局市場の現状と将来予測2011」という調査レポートの発刊へ向け、各方面へ取材を行っているところだが、そのなかで、最も不透明なのがソフトバンクモバイルのインフラ戦略である。

 主力バンドである2GHzに加え、最近サービスを開始したDC-HSDPAの「ULTRA SPEED」は1.5GHzで、そして将来的には700/900MHz帯の獲得とウィルコムの次世代XGP(TD-LTE)の活用も含めてなど、その姿が見えにくい。

 当面の注目点は、2010年3月末現在で約6万だった基地局数を2011年度3月末までに12万(いずれも屋内基地局を含む)に倍増するとした「電波改善宣言」の進捗だろう。2010年度3Qの決算発表では、3月末には12万局、9月末には14万局になるとしているが、そのうちレピーターが含まれるのか、フェムトはどうなのかなど、これまた定義が今ひとつはっきりしない。
 
 但し、これまで10年弱かけて6万局しか設置していなかった基地局を、たったの1年で2倍にしようというのだから並みの努力では実現できないことだけは確かだ。かつて、ソフトバンクはボーダフォン買収時に弱点だった基地局問題を一気に片付けるとして、「B4P」というプロジェクトを立ち上げ、リバースオークションという呼ばれるコストダウン手法を導入したものの、結果は内部的にも外部的にも決して満足のいくものではなかった。

 そして、今回は12万局達成の隠しタマとして、ウィルコムの基地局ロケーションを活用するとしているが、その多くはコン柱である。理論的には、基地局設置のなかで最も手間と時間のかかる置局交渉が必要ないという点で「なるほど」と思う。しかしその一方で、当然だがPHSと携帯電話では出力やカバーエリアも異なり、更には携帯電話には「干渉」問題も付きまとう。この短期間で、数をこなしながら電波が最適に吹くよう綿密なエリア設計がなされているのだろうか。

 そうした懸念から、果たして総務省に届けられている基地局数から素直にドコモやKDDIと同じようにエリア品質やエリア整備が進んでいる考えていいのかという疑問も沸く。少なくとも、現時点で発表されている基地局数にあるように、KDDIよりSBMのエリア品質が優れているようには感じられない。

 むしろ、その原因を別のところに求めるなら、利用している周波数の違いも大きいような気がする。800MHzがメインのKDDI,2GHzがメインながらもルーラルでは800MHzを活用し、効率的なエリア展開を行っているドコモ。それに対してSBMには、800MHzがない。

 MCAでは、携帯キャリアの競争戦略における根本的なポイントの一つは、使用している周波数帯幅と周波数帯にあると考えている。中身は別に、数的には3社がイーブンへ近づく中、改めて使用する周波数帯の意味が問われてきそうだ。
 
 SBMのインフラ戦略について、今回の調査レポートでは、いくつかのシナリオを提示し分析していきたいと考えている。

2011年3月3日木曜日

Reserch Note:水面下で進む?iPhoneの国内マルチキャリア化へ向けた条件整備

 このところ複数の訪問先で、iPhoneのドコモやKDDI導入の可能性について、意見を求められる機会があった。

 国によって状況は異なるが、こまでiPhoneが1社にしか導入されていなかった代表的な国として、米国(AT&Tワイヤレス)、韓国(KT)、そして日本(ソフトバンクモバイル)があった。

 しかし、周知のように最近、米国と韓国では1社体制は崩れ、更にはアップル自身が米国でベライゾン・ワイヤレスがCDMA2000版iPhoneの発表の際に、「これで1社独占契約の国はなくなった」と明言したのである。

 また、最近のソフトバンクの決算発表の席でも、孫社長がアップルとは独占契約ではないとコメントしていることからも、ドコモやKDDIといったライバル会社からiPhoneが発売されても、契約上は何ら不思議はないということになる。

 むしろ、国内でアンドロイド旋風が本格化する2011年度以降、スマートフォン市場においてiPhoneのポジションが相対的に影響を受けることは容易に想像できる。アップルとしては、勢いがあるとは言えシェア3位の携帯会社のみの供給体制でいいのかということは、当然のことながら考えるだろう。

 一方、ドコモやKDDIにとってもiPhoneという存在は、ソフトバンクへの対抗上からも、依然として喉から手が出るほど欲しい『タマ』だろう。

 両社は、このところスマートフォン化へと大きく舵を切っているが、共通しているのは、グローバル端末の採用へ向けて動き始めている点である。

 背景には、アンドロイドOSという世界標準のプラットフォームが普及するなかで、世界中の端末ベンダーがスマートフォンを容易に開発できるようになったこと。そして、もう一つは携帯会社サイドで、これまで国際標準に対応していなかった周波数再編(新800MHz)が進み、容易にそうした端末を調達しやすくなったことが挙げられる。

 国内におけるiPhoneのマルチキャリア化へ向けた条件整備が着実に進んでいることだけは間違いない。

◇関連情報
Column:米国ベライゾンによる「CDMA2000版iPhone 4」投入 (2011年1月13日木曜日)
http://mca-mobilenewsletter.blogspot.com/2011/01/columniphone.html

Column:スマートフォンによって変容するモバイル市場の構図 (2010年11月23日火曜日)
http://mca-mobilenewsletter.blogspot.com/2010/11/column_23.html

2011年3月1日火曜日

Column:強者間の『同質化』から『差別化』の戦いへと移行しつつある携帯市場

1.KDDIによるWiMAXスマホ&テザリング

 市場の成熟化は、弱者の撤退と強者同士の同質化の戦いが本格化するが、次のステージは『強者間の差別化の戦い』になるのかも知れない。

 昨日、KDDIはモバイルWiMAXに対応したスマートフォンの「htc EVO WiMAX ISW11HT」を4月上旬より発売することを明らかにした。

 携帯とモバイルWiMAXがハイブリッド化され使えるようっており、料金は5,985円/月(525円/月の+WiMAX利用料は8月までは無料)。更には「htc EVO WiMAX ISW11HT」をポータブルルーターとして利用し、ほかの通信機器からネット接続できる テザリングの『解禁』にも踏み切ったことは、個人的には前回のスカイプ以上に市場へのインパクトは大きいのはないかと推察する。

 テザリングは、利用者にとっては、1つの機器で複数の端末を接続できるとあって利便性の高いサービスだが、国内ではこれまで通信トラフィックへの影響を懸念し、特に大手は二の足を踏んでいたサービスだ。

 弊社では、昨年の時点で2011年の携帯サービスの注目サービスとして、テザリングを取り上げていた。

 KDDIは2011年度の端末戦略に関して、全体の半数以上をスマートフォンとして発表する予定で、国内向けのサービスに対応したWiMAX対応スマートフォンについても今後は検討していくとしている。

2.通信技術の差別化により疑問視されるSIM解除の効果

 堅牢な3Gネットワークを擁するドコモに対抗するカタチで、ソフトバンクによる「TD-LTE」、そして今回のKDDIによる「モバイルWiMAX」一体化の動きは、今後の各社の戦いが「差別化」という流れのなかで行われるのではないかと予感させる。

 これまで携帯各社は、方式やバージョンの違いこそあれ、同じ携帯電話という通信技術の上のレイヤーで差別化を一生懸命やってきたのだ。つまり、通信技術というレイヤーに限れば、同質だった。

 しかし、これからは違う。それぞれが生きていく土俵を自らでつくり、そこで戦っていこうとしているように見える。

 そして、そのことはある意味、市場活性化という大儀のために半ば強制的に総務省が推し進めてきたSIM解除が、各社が競争戦略の観点から独自の通信技術を取り入れていくなかで果たして機能するのかという疑問を持ってしまう。

 異なる通信技術を採用している状況下で、携帯キャリア間で問題なくSIMフリーが機能するには、それぞれの技術に対応するための莫大なコストがかかってしまうだろう。

 MNPしかり、周波数の割り当てもそうだが、どうも官主導には色々問題があるように思えてしまうのは私だけだろうか。 

 
Reserch Note:SIM解除がもたらす新たな競争サービス (2010年11月30日)
http://mca-mobilenewsletter.blogspot.com/2010/11/reserch-notesim.html

2011年2月22日火曜日

ReserchNote:本当の意味の外洋時代を迎えた国内系企業

 iPhoenやGalaxyなど、海外勢の攻勢を受けてきた国内端末市場だが、やっとFelicaや赤外線通信、ワンセグなど和製機能を搭載したスマートフォンの投入によって国内勢の巻き返しがはじまりそうだ気配だ。

 最近ではIS03のシャープ製に続き、REGZAPhoneの富士通東芝、そしてNECカシオが年度内の投入に向け準備を進めているとの報道も見られる。おそらく、来年度早々にはパナソニックも本格投入していくるものと見られ、主要どころが勢揃いすることとなる。

 但し、スマートフォンの登場によって回復傾向にある端末市場だが、SIMフリーへと市場構造が変化するなかで、これまでのように国内端末ベンダーが国内市場のほぼ100%を占めるという時代に逆戻りすることはない。

 こうした状況は、端末だけではなく、携帯基地局などインフラ市場でも同じだ。

 これまで携帯キャリアがインフラ設備にNTT仕様など国際標準技術に独自の仕様を織り込むことが、海外系ベンダーの参入障壁になってきた。ある海外系のインフラベンダーの担当者は、国内で営業力を強化するために最大の壁は『本社の説得』だと言う。海外ベンダーの本社としては、極東の島国の独自仕様にいちいち対応できないと言われ、携帯キャリアからは仕事をもらっても対応できないケースが多かったのだ。

 しかし、先日のソフトバンクによる次世代XGPの「TD-LTE」や導入が進んでいるLTEでは、携帯各社がコスト削減の観点から独自仕様をできるだけ減らし、国際標準で運用していこうとしている。

 尚、3Gサービスでも、ソフトバンクとイー・モバイルのインフラ設備は、ほぼ国際標準のまま導入されてきた。

 壁がなくなるということは、品質や保守力なども大切だろうが、それ以上に重要となるのが価格競争力になる。その点では、国際市場向けにスケールメリットの最大化が享受できる海外系インフラベンダーにアドバンテージがあるのは明らかで、国内市場の8割程度を占めてきた国内勢には不利となる。

 そうでなくても、ノキア不振によるマイクソフトOSの採用やカナダの通信機器メーカーであるノーテル破産など、世界市場で戦っている企業であってさえも生き残りが厳しくなってきている。

 国内市場という内海で育ってきた国内系企業とって、本当の意味での外洋時代がはじまろうとしている。

2011年2月20日日曜日

Column:ソフトバンクの「TD-LTE」導入による競争力強化

1.「TD-LTE」の持つ潜在力

 やはりというか、やっとというべきか。

 ソフトバンクは世界最大手の中国チャイナモバイルやインド・バーティエアテル、英ボーダフォンと組み、次世代携帯電話技術の推進団体「グローバルTDーLTEイニシアチブ」を設立すると発表した。

 傘下に収めた次世代PHS事業でTD―LTEと互換性を持たせるというもので、商用サービスを今年中に開始すると宣言した。

 「TD-LTE」は、3GPPではLTEの「TDDモード」として、「FDDモード」と同時に3GPPリリース8で2009年春に策定されている。

 両者は、基本的に同一規格で物理レイヤとMACレイヤは異なるものの、下りがOFDMA、上りがSC-FDMAを採用する。また、運用帯域幅も1.4、3、5、10、15、20MHzをサポートと共通で、上位レイヤは非常に似通っている。

 具体的には、端末チップや基地局装置はソフトウェアの変更で対応可能となっており、基地局や端末の開発を担うベンダーにとっては開発リソースの多くを共通化できるというメリットがある。

 「TD-LTE」のパワーは、今回参加を表明した携帯キャリアの抱える11億人という数からして、今後大きな勢力になることは間違いなく、一部には遠からずWiMAXを吸収するという見方が強くなっているほどだ。
 
2.「TD-LTE」採用のソフトバンクのメリット

 次に、PHSのインフラを「TD-LTE」にスイッチしようとするソフトバンクのメリットを見ていこう。

 今更言わずもがなだが、「TD-LTE」を選択することで、

 ・世界市場から基地局や端末を安価に調達できる
 ・「TDD」と「FDD」のデュアルモード端末が容易に開発可能
 ・その結果、自ら唯一の弱点とするネットワークインフラの増強が実現

 ということになる。

3.導入へ向けた課題

 「TD-LTE」導入にあたって、課題となりそうなのが、もともとXGP採用で認可していた2.5GHz帯について、総務省がどう判断するかということになりそうだ。

 ソフトバンクは、総務省への利用申請に際してTD-LTEという言葉は極力使わず、名称を次世代版XGPなどとしながら進めるとみられるものの、改めて審査をするという可能性がない訳ではなさそうだ。

 更に言えば、2.5GHz帯はウィルコムに割り当てたのであって、ソフトバンクが事実上一体運用するということになれば、話が違うという意見も出てきそうだ。

 但し、同じく2.5GHz帯向けにモバイルWiMAXを展開しているUQコミュニケーションズは、他社へのMVNOをやりはしているが、KDDIとの一体運用が行われているのも事実であり、同じくMVNOの義務付けでソフトバンクに認可という展開もありそうだ。

 いずれにしても、苦境に陥り引き取り手がなくて最後に駆け込んだのがソフトバンクであり、総務省に筋論をどこまで通す気概があるのだろうかという気もする。

 ソフトバンクのパワーが更に増強されていくことだけは、間違いなさそうだ。


【関連情報】
Column:3.9Gの本格競争前に早くも選定された4Gの技術規格
http://mca-mobilenewsletter.blogspot.com/2010/10/column_26.html

Column:復活の狼煙を上げたウィルコムの切り札投入
http://mca-mobilenewsletter.blogspot.com/2010/12/column.html

Reserch Note:海外の再編の影響受け地殻変動進む国内モバイルインフラ市場
http://mca-mobilenewsletter.blogspot.com/2010/09/reserch-note_23.html

Reserch Note:日本へのTDD-LTE導入の可能性
http://mca-mobilenewsletter.blogspot.com/2010/09/reserch-note.html

2011年2月16日水曜日

Column:世界の携帯端末市場におけるプレーヤー勢力図の変化

1.潮目の変化

 携帯電話の世界最大の展示会である市「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)」がスペインのバルセロナで開催されている。

 過去の10年と比較し、今回はノキアやモトローラといった欧米勢が衰退する一方で、韓国サムスンやLG、日本のドコモ、中国のHUWEI、ZTEなど、アジア勢が主役に躍り出るなど、変化の潮目を迎えたような印象を受ける。

 なかでも象徴的な動きの1つとして挙げられるのが、ノキアによるスマートフォン向けのOSのマイクロソフトとの共同開発である。

2.欧米系端末ベンダーの衰退

 ノキアが「Windows Phone」を採用するほか、コンテンツ・アプリケーション販売ストアを統合する。また、ノキア端末に検索サービスとして「Bing」、検索連動広告として「adCenter」を採用し、マイクロソフトと共同のマーケティング施策、開発ロードマップの共有も行うという。両社で共同開発する端末は、2012年の発売を計画している。

 ノキア、エリクソン、モトローラといった欧米系端末ベンダーがスマートフォン向けOSとして、「EPOC(エポック)」をライセンスし普及させることを目指した合同ベンチャー「シンビアン」を設立すると発表したのが、1998年6月。ライバル3社の共通の敵は、PC向けOS市場の覇者であるマイクロソフトだった。

 「インフラメーカーらしい武骨なデザイン」とライバルから評されることの多かったエリクソンは、当時シェア3位ながら端末事業の不振から2001年4月にソニーと合弁会社「ソニー・エリクソン」を立ち上げた。また、2007年まで世界シェア2位だったモトローラのポジションは7位まで落ち込み、2010年末には同じく端末事業の不振から、同事業の分離を発表している。

 いずれも2000年代半ばからの韓国サムスン、LGといった新興端末ベンダーの台頭が流れを変えたきっかけとなったが、決定的だったのは従来のフィーチャーフォンからスマートフォンへと市場トレンドが一気に切り替わったことだった。

 アフリカなど新興市場では、これらのコスト構造では全く太刀打ちできないレベルで中国端末ベンダーの低価格端末が市場を席巻し、高機能端末ではiPhoneやブラックベリー、そしてアンドロイド端末といった新たなプレーヤーに主導権を握られた。

 携帯端末市場の巨人と呼ばれたノキアも事情は同じだ。世界の携帯電話市場においてスマートフォンの割合は既に20%を突破するなか、同社のOS「シンビアン」の市場シェアは今でも40%弱あるとは言え、前年比10%前後のダウンとなっている。ちなみに、携帯電話端末市場全体の同社のシェアは2009年の38%から2010年は33%に落ち込んでいる。
 
 実際、2007年に20%以上あったノキアの携帯電話事業の営業利益率は、最近は10%を割り込んでいるような状況だ。

3.ノキアの葛藤

 こうした凋落に危機感を抱いたノキア首脳部が、2010年9月に再建を託したのがマイクロソフトのビジネス部門を率いていたエロップ氏だ。

 決算発表に際して、それまでのノキアの戦略を抜本的に変える用意のあることをうかがわせ、スマートフォン市場で「チャレンジャー」となる必要があると説いた。スマートフォン部門の能率向上をはかるため、全社の2.8%にあたる1,800人のリストラを行ったり、米ベライゾン・コミュニケーションズからジェリ・デバード氏を新しく設けた最高マーケティング責任者(CMO)のポストに招くなど、矢継ぎ早の改革を進めてきた。

 その一方で、ノキアでスマートフォン戦略を牽引し、次期CEO候補、もしくは「ノキアのスティーブ・ジョブズ」とも言われてきたアンシ・バンヨキ氏が退任するなど、ノキアのスマートフォン戦略が大揺れであることを伺わせていた。

 エロップ氏は、今回のマイクロソフトとの提携について、ノキアの「シンビアン OS」搭載端末とマイクロソフト「Windows Phone 7」採用する携帯端末をあわせた出荷台数は、2010年Q4に約3,000万台と、スマートフォン市場のなかで依然として約30%を占めており、「アップル「iPhone」とAndroid勢、ノキア-マイクロソフトの三頭によるレースになる」と述べている。

 尚、ノキアは、これまで独自OSの「シンビアン」、米インテルと共同開発中のOS「MeeGo(ミーゴー)」があり、2010年秋にシンビアン・ファウンデーションの方針変更を発表し、シンビアンを自社下に編入。これにより、同年2月にインテルと共同発表したMeeGoをハイエンドに、シンビアンはエントリーにという方向を打ち出していた。
 
 市場では、ノキアがフィンランドのエスポーから米国のシリコンバレーへ本社機能の移転を検討しているとか、マイクロソフトによるノキア乗っ取りといった過激なコメントも聞かれるが、それだけトップ企業であっても日々激変する市場の変化に対応できなければ、簡単に転落する危険性があるということではないだろうか。

 ノキアの今後に注目していきたい。

2011年2月8日火曜日

Column:4G商用化へ向け課題となる携帯キャリアの収益モデル創出

 LTEの商用化がはじまったばかりというのに、ドコモは第4世代(4G)移動通信方式「LTE-Advanced」の実験用無線局の予備免許を取得したと発表した。

 実験試験局免許が得られた後、横須賀市のドコモR&Dセンタ内および周辺と、相模原市の市街地で実際の使用環境で無線伝送実験を行うとしている。

 3.9Gとも言われるLTEの次の世代が4Gであり、国際電気通信連合(ITU)の無線通信部門(ITU-R)では、2010年10月にそれまで検討されてきた6つの規格案から「LTE-Advanced」と「WirelessMAN-Advanced」の2つを選択している。

 「WirelessMAN-Advanced」は、、UQコミュニケーションズが提供しているモバイルWiMAX(IEEE802.16e)の次世代技術である。

 既にドコモは、室内信号伝送実験で下り約1Gbps、上り約200Mbpsの伝送には成功している。

 他社へ先駆けて4Gの開発を推進していくあたり、携帯キャリアでありながら世界でも稀有な社内に研究開発部門を持つという事業体だからなせるワザだろう。世界トップにこだわったW-CDMA、FOMA立ち上げ当初の苦労を繰り返すことを嫌いITU-Rに4Gへの橋渡しとしてLTEを提案して標準規格にするあたり、世界広しといえどもドコモならではないだろうか。

 2015年以降の導入とされる4Gだが、そのエリア展開は3Gのように全国をカバーするものではなく、需要が高いエリアへ既存のネットワークにオーバーレイの形で展開されていくと見られる。

 その頃になると、加入者の純増もほぼほぼストップ状態(対ヒト向け)となり、4Gの基地局投資コストをどのように回収してくのか大きな問題になるだろう。4G化への流れとともに、携帯キャリアには新たな収益モデル創出という課題が突きつけられている。

2011年2月7日月曜日

Column:2011年1月の加入者推移から見える各社の思惑

 電気通信事業者協会(TCA)による2011年1月時点の携帯電話・PHS契約者数が発表された。

 それによると、純増トップは10ヶ月連続でソフトバンクモバイル(24万600件)で、2位がドコモの13万4,000件。3位がイー・モバイルの8万1,500件、KDDIが6万7,000件と続いている。また、UQコミュニケーションズは7万5,900件だった。

 2010年12月と比較すると、ソフトバンクのトップは相変わらずだが、1月は8万件程度少なくなっている。また、前月に最下位ででUQコミュニケーションズに2ヶ月連続で敗れたイー・モバイルは、KDDIとUQコミュニケーションズを抑えて3位に上昇した。

 一方、大きなトピックスとして注目されるのが、毎月5万件前後の純状態で推移してきたウィルコムの純減数が400件にまで改善されてきている点だ。

 イー・モバイルとウィルコムが加入者獲得競争で明るい兆しが見えている背景には、両社とも他社向け通話定額サービスの導入効果があると見られるが、こうした攻勢に携帯大手3社は、下記のような学割キャンペーンを年度末(2011年1月28日~5月31日)に展開することで対抗する構えだ。

 ドコモ⇒基本料390円「応援割引」
 KDDI⇒基本料390円「ガンガン学割」
 SBM⇒基本料無料「ホワイト学割with家族2011」

 そして今後の競争力を占う上で気になるのが、イー・モバイルの法人向けに「iPad Wi-Fi」モデル販売である。一見すると、イー・モバイルがアップルの販売代理店になるということのようだが、個人的にはこれをきっかけに大きな動きがはじまったようにも思える。

 その点、各社の加入者推移とともに注意していく必要があるだろう。

Column:周波数オークション消滅?の説明責任

 注目を集めていた周波数オークションが、突然立ち消えとなりそうだ。

 政府は、2010年12月に開催されたICTタスクフォースの政策決定プラットフォームで、主に700M/900MHz帯の再編にあたり、周波数オークションの考え方を取り入れた制度を創設するため、必要な関連法案の整備を行っていくとしていた基本方針を打ち出していた。

 しかし、2月8日に閣議決定される予定の電波法改正案には、そうしたオークションに対する考え方は削除されているのだという。

 周波数の割り当てについては、わが国は実質、総務省が割当先を決める方法となっているが、これについて以前より決定プロセスが「不透明」と批判があることに加え、財政難に苦しむ政府としても、オークションによって収入が増えるというメリットがあり、民主党政権下で検討されてきた。

 もっとも、オークション導入には落札価格の上昇により、それが結果的にサービス価格の高騰につながる可能性もある。実際、2000年頃に欧米で行われた3Gの周波数オークションでは、落札総額が米国では約1兆9,000億円、英国は約4兆円、ドイツは約5兆円にまで上昇し、結果、巨額の落札価格に耐え切れず周波数を返上したり、資金枯渇で3Gサービスを提供できないケースが続出した。

 そのため、政府としてもオークション導入の方法について、様々な角度から検討しているとされてきた。

 閣議決定までされてきた周波数オークションが消えた理由は何なのか?

 一説には、利権(特別会計)と化している電波利用料(2009年度で約640億円)が無くなることを恐れた総務省の官僚と、オークション導入に一致団結して反対してきた携帯キャリアの抵抗が功を奏したとも言われている。

 他にも、検討されてきた700/900MHz帯では時間的な制限から断念するが、4Gからは予定通りオークションが導入されるといった意見もあるようだ。

 とりあえず総務省や政府は何事もなかったかのように消すのではなく、オークション導入に関する説明責任を果たすべきではないだろうか。

2011年2月3日木曜日

Column:本番を迎えるタブレット市場向けOSの競争

iPadが牽引するタブレット市場だが、Strategy Analyticsによると、iPadのQ4の世界における市場シェアは75.3%で、「Android」搭載端末の21.6%だった。しかしQ3はiPadが95.5%、Androidが2.3%だったことからすると、Androidが着実にポジションをアップさせていることが伺える。

 ちなみに、2010年通期の両者のシェアでは、iPadが84.1%、Androidが13.1%だったとしている。

 Androidの牽引役となったのはサムスンの「GALAXY Tab」だったとしているが、韓国の聯合ニュースによると2010年全体で、200万台のGALAXY Tabを出荷したとしている。

 しかし、この数字を巡っては一部サイトでサムスンの幹部が実売数は「きわめて順調」だったとコメントしたにも関わらず、「きわめて少ない」 と掲載されたことで、混乱が生じた。

 但し、米国の携帯電話販売店の販売情報を追跡しているITG Investment Researchによると、iPadの同時期における返品率は2%だったのに対し、「GALAXY Tab」は約13%にも上っているということからも、まだ両者を比較するには無理があるような印象も受ける。

 先日、Android OSの開発を手がけるグーグルは、タブレットに最適化した新プラットフォーム「Android 3.0(コードネーム:Honeycomb)」に関する発表を行った。

 本格的な競争は2011年からとなりそうだ。

Column:日本通信とイー・モバイル小競り合い?

 ツイッター上で日本通信の三田社長が、「イーモバイルがIDEOSの販売を止めようとしている」とつぶやき、ちょっとした話題になっている。

 IDEOSは日本通信が2010年12月に発売したHUWEI製のスマートフォンで、イー・モバイルも同様の製品「Pocket WiFi S」を2011年1月より投入している。

 イー・モバイルの「Pocket WiFi」は同社成長の原動力となっている製品で、これまでにPocket WiFiの同型機種が世界で100万台出荷され、そのうち60万台がイー・モバイルの販売であったことを明らかにしている。

 「Pocket WiFi S」の発表の席上、イー・モバイルは同等のハードウェアとなる「IDEOS」が発売されていることを尋ねられると、「イー・モバイルがファーウェイの日本における正規代理店。(日本通信提供のものは)並行輸入品のようなもので、当社では関知しない」と述べたほか、日本通信のIDEOSを持ち込んでイー・モバイル回線を契約したいというユーザーには? という問いに「(回線契約は)提供しない」とコメント。

 その後、HUWEIジャパンも、日本通信発表の「IDEOS発売」に対し、「ファーウェイ・ジャパンを通じて発売するものではない」とのコメントをわざわざ発表するなど、イー・モバイルからの圧力でもあったのだろうか、明らかに不快感を示していた。

 きっと、イー・モバイルにしてみると全く同じ機種をSIMロックフリー、契約縛りなしで販売されるということで、面白くないということなのかも知れない。

 2月3日は日本通信の「2011年3月期 第3四半期決算発表」となっている。

 発言が注目される。

2011年2月2日水曜日

Column:急成長を遂げるSNSの断片‘考’

 有名タレントを起用し、洪水のようにTVCMをタレ流し、新規会員を集めているのが、モバゲーやグリーといったSNS(ソーシャルネットワークサービス)だ。

 いずれも2,000万以上の会員を抱え、今やiモードなど携帯会社と肩を並べるプラットフォーム会社である。一時期、テレビで「無料です」のCMを流していたものの、実は無料は入り口だけで、ゲームで使うさまざまなアイテムに課金していくことで、金の成る木として急成長してきた。

 DeNAの売上高は前年同期比3.2倍の271億円、対するグリーは同82%増の124億円という急成長を遂げている。特筆すべきはそれだけではない。営業利益率はともに約50%という高収益性でもあるという点だ。

 昨年には、グリーとの取引を停止するようゲームソフト開発会社に圧力をかけたとの疑いで、「モバゲータウン」を運営するDeNAに公正取引委員会が立ち入り検査が入った。

 果たして、本当にそうした圧力があったのか真相は分からないが、SNS向けのゲームは「ソーシャルゲーム」と呼ばれ、国内では約2年前からDeNAやグリーなどSNS大手が参入し、2010年よりそれぞれ外部のゲーム開発会社のゲームを提供し始めたことで、ゲーム会社の囲い込みが激しくなったとされている。

 iモードなど携帯会社のプラットフォームと異なり、SNS向けのゲーム(SAP:Social Application Provider)ではDeNA、グリー自らもゲームを供給しながら、外部からもゲームを調達するという点があらゆる意味で業界の特異性を表しているようにも思う。

 国内で得た高成長と高収益を原資に、これらの会社は海外企業のM&Aなどで更なる成長を目指すとして鼻息は荒い。しかし、こうした企業が成長することが、日本経済にどれくらい寄与するのかなど、社会性という観点からの‘在り方’について、議論がもっと起きてもいいような気がするのは私だけだろうか。
 
 

2011年2月1日火曜日

Column:端末の魅力&携帯会社の‘作為’でバカ売れているスマートフォン

 ドコモは1月28日、2010年度第3四半期の決算を発表した。営業収益は前年同期比1%減の3兆2,091億円、営業利益が前年度比7.9%増の7,585億円、純利益が6.7%増の7,486億円で、減収増益となった。

 減収要因となっているのが、音声ARPUの低減だ。音声収入は前年同期比で1,405億円減少しているが、そのうちの800億円程度が、基本使用料が安くなるバリュープランへの移行の影響としている。バリュープランの契約率は12月末で68%となっており、その影響は今後1年程度は続くとしている。

 スマートフォンが予想以上に拡大しており、2010年度を250万台(当初の目標は130万台)と上方修正し、2011年度は600万台まで伸張し、2012年度には販売台数がフィーチャーフォンを超えると予測している。

 これほどスマートフォンが伸している背景には、当然だがフィーチャーフォンよりスマートフォンを望む顧客が多いためだろうが、しかし一方で加入者数増加が見込めない状況下で、もう1つの収益エンジンであるARPU増加のアクセルを踏みたい携帯各社の思惑があることも忘れてはならない。

 だから、今店頭にいくと、フィーチャーフォンよりスマートフォンの方が安価だし、そこには携帯各社が販売インセンティブをスマートフォンの方に多く投下し、ある意味スマートフォン購入へ仕向けるという‘作為’が働いているということが容易に察しがつく。

 伝え聞くところでは、今年の3月から続々と国内端末ベンダーのスマートフォン&タブレットが上市されるとのこと。数年後にはスマートフォンがスマートフォンと呼ばれることがなくなる時が来るのではないだろうか。

2011年1月31日月曜日

Column:携帯会社の『哲学』からサービスを選択するという考え方

 その昔、通信自由化の流れのなかで国際メガキャリアが一斉に国内参入してきた時があった。

 NTTにIRU (Indefeasible Right of Use:回線長期使用権)という裸の状態で回線を開放させ、それをバックボーンにクリームスキミングという需要の大きいエリアだけにアクセス回線を敷設していく手法で、顧客を獲得していった。

 もとより通信サービスには、家電や食品などの商品と異なり、誰でも広くあまねくサービスを享受できるユニバーサルサービスという義務が通信キャリアに課されている。

 しかし、先に述べたような新規参入キャリアには、そうした制約は課されることなく、一時期市場を闊歩したのだった。

 翻って、携帯電話サービスはどうだろうか。少なくとも3Gサービスまでは、各社の哲学の違いはあるにせよ、それなりにユニバーサルサービスの実現に努めてきたように見受けられる。

 しかし、当然のことながら収益力、契約者数、キャッシュ能力などはそれぞれの携帯会社で差がある。ある会社は、堅牢なそれこそ震度7でも倒れない基地局を建てれば、別の携帯会社は建築基準法ギリギリの鉄骨で、災害のたびに基地局が倒壊するものの、その低コスト化によって安価な通信料金を実現しているところもある。

 また、ある携帯会社は、鉄塔を建てなくはならないが最適な建築場所までの道がないので、まずはそこから整備する。すると、数ヶ月遅れで他の携帯会社が、舗装されている道を通って、先に建てた鉄塔の横に基地局を建てるといったことも起きている。

 通信サービスには、契約した時の回線速度や容量を予め保証しサービスを提供する「ギャランティ型」と、その時々の回線状況によって通信速度などが変化する代わりに安価な通信料金でサービスを受けられる「ベストエフォート型」の大きく2つの考え方がある。

 どれがいいとか優れているといったことはなく、それぞれの携帯会社がどちらの哲学を選択してサービスを提供するのかというだけの問題である。但し、いずれの場合も行き過ぎてしまうと、利用者にとっては使いずらいサービスになることは目に見えている。

 携帯会社の哲学と言う観点から、サービスを選択するというのも一考の余地があるように思えるのだが、いかがだろうか?

2011年1月28日金曜日

Column:世界が注目するドコモのLTEサービスのアプリケーション力(=突破力)

 ドコモが次世代モバイルネットワークのLTE(Long Term Evolution)「Xi(クロッシィ)」を2010年12月24日より開始をしたが、12月の加入者数は1,200件とスモールスタートとなった。しかし、2011年度末には100万契約、2014年度では1,500万と2011年以降に急速な加入者獲得を見込んでおり、そのことはFOMAがサービス開始の翌年度が33万しかなかったことからもアグレッシブルさが伝わってくる。

 もっともコストがかかる基地局設備については、既にある3Gの鉄塔、アンテナなどの基地局部材を共用化することで低減化を図り、実にFOMA立ち上げ時の10分の1前後となっている。

 このことからも、携帯各社の次世代モバイルネットワークの動きは、工事会社や部材メーカにとっては、これまでの3Gの時のようなウマミが少ないというのが大きな特徴だ。

 LTEが次世代モバイルネットワークのメインストリームになるという点については、このブログでたびたび指摘しているので詳細は割愛するが、世界最初のLTEサービスを提供したのは北欧のオペレーターであるTeliaSoneraである。

 本拠地のスウェーデン・ストックホルム、ノルウェー・オスロの2都市でスタートしたものの、サービス開始後5ヵ月の時点(2010年5月)で契約者数は1,000名程度しかなかった。理由は単純で、端末がLTE専用で3Gや2Gは搭載されていなかったのだ。その後、7月にロシアのMTS、9月に米国MetroPCS、11月に香港のCSLなどがそれぞれスタートさせている。

 LTEではFOMAでこだわった世界初ではなく、世界のトップグループとしてサービスを開始するといった言葉通り、12月ドコモは米国トップのモバイルキャリアであるVerizon Wirelssと時同じく(Verizon Wirelssは12月5日開始)してローチンしたのである。

 ドコモでは「高速」「大容量」「低遅延」という特徴を持つLTEのアプリケーションの1つとして「同時通訳サービス」や「AR(Augmented Reality=拡張現実)」などを挙げるものの、スマートフォンのLTE搭載が早くても2011年後半という予測に立てば、こうした用途は中長期的なポジションに位置づけられるのではないだろう。

 むしろ、ソニー・コンピュータエンタテインメントのPSP後継機や日産自動車の電気自動車「リーフ」への通信回線提供など、通信モジュールへの広がりの方が、SIMロック解除を予定しているドコモにとっては、素の強靭なインフラ力で勝負できる重点市場となるだろう。

 強気なLTE加入者計画の背景に『人対人』だけでない『M(Machine)対M(Machine)』市場拡大が含まれていると見るのが妥当で、そうした技術(突破力)にアプリケーション不足(=ARPU低下)で苦しむ世界の携帯キャリアが熱い視線を注いでいる。

2011年1月25日火曜日

Column:焦土化した先に見える携帯市場の変化の予感

 年間純増数のうち3割以上を稼ぎ出すビッグウェーブ(=年度末商戦)を前に携帯各社の戦闘準備が整いつつあるようだ。何せ最も契約者を獲得できる時期とあって、各社一斉にキャンペーンを打ち出し地引網の如く加入者獲得を狙っている。しかし、逆にここでしくじれば、同じ規模の魚場は来年まで持ち越しとなり、まさに死活問題となる。

 特に、今年のビッグウェーブの結果次第では、携帯市場の競争構図が根底から変わる可能性があると指摘する関係者が多く、その意味でも注目されている。

 年度末商戦へ向け、まず動き出したのがソフトバンク傘下に入ったウィルコムだ。純減状態からのV字回復を目指し、2010年12月3日より他社携帯や固定電話宛の通話が、オプション契約の月額980円で定額となるサービス「だれとでも定額」を開始。

 それまで自社網内の無料通話に限定されてきた競争市場を更に一歩広げた。ソフトバンクでは3ヶ月以内の純増を公約に掲げているが、まだその兆しは見えない。

 2011年からは次の矢として、ウィルコム加入者からの紹介を受けたユーザーが新規契約で「だれとでも定額」に加入すると、紹介者と新規加入者の「だれとでも定額」が一定期間無料になる「『だれとでも定額』ご紹介キャンペーン」や、新規契約時に2回線目の「新ウィルコム定額プランS」の月額利用料が無料となるキャンペーン「もう1台無料キャンペーン」を開始するなど、てこ入れを急いでいる。

 これに対抗する形で同じような他社間通話料金無料化のキャンペーンを展開しはじめたのがイー・モバイルだ。新たに投入するスマートフォンを対象に毎月の基本料と別に月1,820円の追加料金を支払えば、同社の加入者同士だけでなく、他社の携帯電話や固定電話への国内通話も無料となる。

 また、イー・モバイルの本丸であるデータ通信系では、月額2,980円でフレッツと2時から20時までのモバイルデータ通信が利用できる「フレッツ+昼割モバイル」を新たに1月20日より開始した。純増数で2ヶ月連続UQ WiMAXに追い抜かれており、早期のてこ入れ策が必要となっていた。
 
 一方、大手サイドはどうか。ドコモ、KDDIの2社は昨年と同様に学生やその家族を対象とする携帯電話加入キャンペーンを展開。ドコモは月々の利用料から毎月390円から利用でき、最大3年間(最大37カ月)割引となり、端末がスマートフォンを利用している場合は、「パケ・ホーダイ シンプル」の利用料が525円割引され、月額最大5,460円で利用できる「応援学割」を提供する。

 KDDIは基本使用料から最大3年間、毎月390円を割り引く「ガンガン学割」の他、「auひかり」を新規契約しauケータイとの「KDDIまとめて請求」に申し込むと、2011年7月利用分から2012年6月利用分 の12カ月間、同一請求グループ内に含まれるすべてのauケータイの基本使用料から月額390円を割り引く「auひかり de ケータイ割引」を5月末まで展開する。

 現時点では、いつも奇抜なキャンペーンで注目を集めるソフトバンクがまだ目立った動きを見せていないが、遠からず発表されることだろう。

 パケット定額制⇒ガラケー高機能化⇒MNP⇒自社網内通話無料化⇒データ通信カードのPCセット販売⇒スマートフォン⇒LTE⇒SIMフリー化と目まぐるしく競争環境が変化するなかで、この会社しかできない独自のサービスという領域は驚くほど少なくなってきている。

 問題は、それぞれの会社がやるかどうかの判断だけだとすると、ますます上位にいる携帯会社の力加減次第という気もしてしまう。

 市場が焦土化した先の新たな変化について、今年は特に注目したい。
 

2011年1月21日金曜日

Column:スマートフォン市場の構造転換へ向けた‘さざ波’考

 世界的なスマートフォン旋風の立役者であるアップルのスティーブ・ジョブス氏の病気療養が発表された翌日、同社から2010年10-12月期の決算が明らかにされた。

 それによるとiPhone,iPad,Macの販売が好調で売上・利益とも前年比7割を超える大幅な伸びを記録した。製品別の販売台数では、iPhoneが1,620万台(前年同期比86%増)、iPadが730万台、Macintoshは413万台(同23%増)、iPodは1,9500万台(同7%減少)と、iPhone、iPadの販売台数は過去最高を記録した。

 iPhoneの好調な推移については、ほぼ想定通りだったものの、iPadの販売量が大きく伸びた点は少しサプライズだった。その前の7-9月期の決算ではiPadの販売台数の数字が低く、タブレット市場の需要を喚起できていないと指摘されてきたからだ。

 一方、ジョブス氏の代わりに説明会の壇上に立ったCOOのティム・クック氏の発言にはいくつか注目される点があった。例えば、先頃ベライゾンからCDMA版iPhoenが投入されたことが明らかになったが、それに関連して同氏は、「iPhoneの独占販売契約は米国が最後であり、どの国のキャリアとも契約は残っていない」とするコメントである。

 既にいくつかのメディアでは、CDMA版iPhoen投入に関してKDDIが動いているかのような論調や、iPhoenの供給基地となっておる台湾のメディアによる関係者からの日本供給についてのコメントなど、ややフライング気味となっている。

 しかし、仮にKDDIが準備しているとしても、決してその過程が明らかになることはないだろう。徹底的な秘密主義を貫くアップルを相手にお気楽な発言を続けていた携帯会社がiPhoenを獲得できなかった事からも当然である。

 それにしても、一説には就活をしている人の5割以上がスマートフォンを保有し、そのうち9割以上がiPhoenという時代だ。しかし、その一方でスマートフォン保有者の7割以上が通常の端末も持つ2台持ちという現実は、どう考えればいいのだろう。

 バッテリーなど端末自体の改善点の他、通信ネットワークに対する不安や不満がまだ多いのが実情なのではないかと勝手に推測する。スマートフォン市場の歪な構造からの転換が、大きな意味におけるトレンドの1つというところか。
 

2011年1月13日木曜日

Column:米国ベライゾンによる「CDMA2000版iPhone 4」投入

 注目を集めてきた「CDMA2000版iPhone 4」がいよいよ米国ベライゾンから発売されることとなった。これまではAT&Tのみが独占提供してきただけに、これによってAppleとAT&Tの排他的提携が終焉を迎えたこととなる。

 基本的な機能やスペックでAT&T版iPhone 4と違いはないものの、Verizon版では、「Personal Hotspot」と呼ぶテザリング機能を備えている。これは、iPhoneをルーターのようにして使い、最大5台のWi-Fi対応デバイスでインターネット接続を共有できるというもの。

 価格は、いずれも2年契約を条件に16Gバイトモデルが199.99ドル、32Gバイトモデルが299.99ドルと、これもAT&T版と同じだ。

 米国最大の携帯キャリアであるベライゾンは、これまでCDMA2000方式を採用し、世界的にはマイノリティであった同陣営のリーダ的存在だった。

 しかし、2007年末同社は次世代ではCDMA2000に競合するW-CDMA系のLTEを導入すること発表し、世界の潮流をLTEに決定付ける原動力ともなった。

 先頃開催された「2011 International CES」では、LTEサービスに対応した10種類の端末を発表したが、そのうち4機種はAndroid搭載機を用意するなどLTEへと一気に舵を切ろうとしている。しかし、今回発売される「CDMA2000版iPhone 4」はLTEには対応していない。

 「CDMA2000版iPhone 4」の発売は2月10日からということだが、ネット上には早くも2011年中に1,000万台以上のiPhone契約者を獲得する(ベライゾン契約者数-約9,300万人)という予測データも出ている。

 これまでAT&T版iPhoneについては、通信ネットワークの貧弱さを指摘されてきただけに、利用者からは歓迎するコメントが数多く紹介される。

 通信料金については、現時点では明らかにされていないものの、次の焦点は定額制料金プランに踏み切るかどうかだろう。実は米国では昨年よりAT&T、ベライゾンとも、一部ヘビーユーザーのデータ通信量を抑える目的などから、従量制課金を導入している。

 そして、最大の関心は「CDMA2000版iPhone 4」が日本へ投入される可能性についてである。国内でCDMA2000を採用するのはKDDIだけだが、周波数など純粋な技術面からだけなら、そのまま持ってきて使うことは理論上は可能であろう。

 当然だが、導入にあたってそれ以外の政治的な側面の方が大きいだけに何とも言えないものの、憶測も含め期待を集めることになることは間違いなさそうだ。

2011年1月11日火曜日

Column:一段と強まる値下げ圧力!他社向け通話定額サービス導入の波紋

 2011年に入り早くも通話料金競争が激化する兆しを見せている。昨年12月、ウィルコム他社携帯・固定宛の通話がオプション契約の月額980円で定額となる「だれとでも定額」を導入し話題を集めたが、今度はイー・モバイルが毎月の基本料と別に月1,820円の追加料金を支払えば、同様に他社の携帯電話や固定電話への国内通話も無料となるキャンペーンを展開する。 

 これは、「通話定額キャンペーン」という名称で1月14日~3月末まで展開する。通話料金が無料となるのは、1回当たり10分以内の通話が対象で、通話回数は月500回まで。10分超過や501回目以降は一律30秒18・9円の通話料がかかる。通話定額の適用期間は最長25カ月。

 スマートフォンの基本料は、2年の継続利用を前提とした場合で月4,5800円や月580~4,980円など。通話定額を適用した場合は月6,400円または月2,400~6,800円となる。

 一方、先行するウィルコムの「だれとでも定額」は、500回を超えた通話については30秒毎に21円の料金が設定されている。10分を超える通話については、各料金プランに順次した通話料がかかる。

 また、音声通話向け料金プラン新ウィルコム定額プラン(月額2,900円)、新ウィルコム定額プランS(月額1,450円)と組み合わせて利用するようになっており、基本的にはW-SIMカード対応機種向けに提供されている。

 対象端末などの差はあるものの、きしくも昨年12月に総務省が接続料の算出根拠を開示させる方針を決めたという報道が流されたばかりで、他社向け回線料金引き下げの圧力が強まりつつある。

 携帯各社は自社の携帯端末同士の通話を無料にするサービスは、既に展開済みだが、接続料を支払わないといけない他社の端末や固定電話との通話料は高く据え置いたままとなっている。そうしたなか唯一、通話料金見直しに前向きだったのがイー・モバイルだったされる。

 これによってイー・モバイルやウィルコムが加入者増加にどのくらい寄与するのか、その結果次第で大手3社も収益源である他社回線向け定額サービスへ踏み切らざるを得なくなると見られる。