2010年11月30日火曜日

Reserch Note:SIM解除がもたらす新たな競争サービス

 PM:ある通信キャリアとの定例ミーティングにて。

 2011年の移動体通信産業の大きな話題となりそうなのが、SIMカードの解除ではないだろうか。

 この問題では、総務省が2011年4月以降に発売される携帯電話端末で対応可能なものからSIMロック解除に応じるよう携帯通信各社に求めていたものの、各社の反発もありSIMロック解除は各社の自主的な判断に委ねる形に落ち着いた。結果、ドコモやソフトバンクモバイルなど携帯各社間で対応に“温度差”が生じる見通しだ。

 総務省としては、解除により端末開発の自由化や海外での利用拡大につなげたいという狙いがあったと見られる。ただ、SIMロック解除により、携帯端末を相互に利用できるようになるのは当面はドコモとソフトバンクだけとなる。KDDIは異なる通信方式を採用しているため各社がロックを解除してもKDDIの端末を他の通信会社の回線で使うことはできない。3社の完全な相互融通が可能になるのは、KDDIがLTEに対応する12年からだ。

 一方、これついて最も積極的な姿勢を見せているドコモでは、2011年4月より出荷する全ての携帯端末について、「SIMロック」を解除できるようにするとしており、携帯キャリア間の顧客争奪戦は更に激化することとなりそうだ。

 そうした競争状況を見据え、その関係者が注目しているのが「テザリング」だという。これが利用できるようになれば、例えばスマートフォンに搭載されている通信回線を使ってノートPCなどからネットに接続できるようになる反面、トラフィックが爆発的に増加することから、その点で携帯キャリアにとっては悩ましい機能でもあるという。しかし、端末OSサイドでは既にiPhone OSは 3.0以降で、Android でも2.2からはこのテザリング機能がサポートされているのだ。つまり、「テザリング」をやるかどうかは、携帯キャリアの胸三寸と言う状態にある。

 今年6月に開催されたソフトバンクの株主総会で孫社長が質問に答える形で「テザリング」について、以下のような見解を示している。

 「iPhoneユーザーは一般の10倍のパケット量の通信をしている。テザリング機能を利用可能にすると100~200倍のパケットを使うユーザーが出てくる可能性がある。定額料金で100人分の帯域を占拠させるわけにはいかず、提供することはできないという経営判断。通信料金が青天井ならばテザリング機能も容認する」

 しかし、2011年からはこうした事情に関係なく「テザリング」競争に突入するというのが、その関係者の見解で各社の次世代ネットワークへの張替えは高速化よりもトラフィック対策が重視されているとしている。

 その点では、ドコモのLTE「Xi」の料金体系が示しているように、今後は定額制の流れにも影響を与えていくことになるだろう。

 いずれにしても爆発的な急増が予測されるトラフィックをどのように封じ込めながら、競争優位に立てるか。来年は、足腰と相談しながらの体力勝負へ突入していくこととなりそうだ。

2010年11月23日火曜日

Column:スマートフォンによって変容するモバイル市場の構図

 和製スマートフォンとして注目を集める「IS03」が11月26日より発売されることが決まった。ワンセグやおサイフ機能、赤外線通信、Ezwebメールを搭載するほか、LISMO!やau one ナビウォーク、携帯電話向けソーシャルゲーム「サンシャイン王国」など独自サービスも移植されている。

 これまでスマートフォン市場では、先行する「iPhone」をドコモが4月に発売した「Xperia(ソニー・エリクソン)」と10月の「GALAXY S(サムスン)」が追撃する構図だったが、これに「IS03(シャープ)」が参戦する。

 量販店のPOSデータを集計しているBCNによると、10月のスマートフォンの比率は、過去最大の33.1%を記録したとしている。9月は27.8%だったが、10月に「GALAXY S」が投入されたことで、スマートフォンの比率が更に上昇した格好だ。

 BCNの集計対象店舗という条件付だが、携帯電話全体の販売台数に占める、32GBモデルと16GBモデルを合算した「iPhone 4」のシェアは21.1%と5台に1台は同端末ということになる。
 
 一方、10月の携帯キャリア別のスマートフォン比率では、「iPhone 4」効果でソフトバンクモバイルが71.9%と圧倒的だが、ドコモも23.6%と4台に1台はスマートフォンという計算だ。それに対し、出遅れたKDDIはわずか6.3%しかなく、今回の「IS03」投入によってどのくらいキャッチップできるか注目される。

 次にアングルを端末ベンダーに移すと、国内スマートフォン市場を牽引してきたのは、これまでは外資系端末ベンダーである。そうでなくても市場の収縮は加速しており、合併などで生き残りを目指している国内勢にとっては、スマートフォンの波に乗り切れていないことにじくじたる想いがあるのではないかと推察する。

 そこで、ここにきて国内端末ベンダーの雄であるシャープとパナソニックが相次いでスマートフォンに関する説明会を開催し、同事業の強化を鮮明に打ち出した。撤退するノートパソコンの部隊をスマートフォン開発に振り分けるとするシャープは、スマートフォンの国内販売台数を2~3年以内に年間500万台に引き上げ、約30%のシェアを目指す方針を表明。また、パナソニックは、2011年前半にAndroidスマートフォン投入し、2015年には海外市場を含め1,500万台の出荷を目指すとしている。

 スマートフォンの台頭が、国内端末ベンダー復活のトリガーになりえるのか、それとも・・・。モバイル市場の構図がスマートフォンによって日に日に変容しているように映る。

2010年11月19日金曜日

Column:モバイル&ワイヤレス市場で繰り返される携帯電話への『同質化』の流れ

 携帯電話の自由化前からマーケット分析をやっている身として感じるのは、モバイル&ワイヤレス市場の成長の影で常に携帯電話にその他の競合製品は影響を受けてきたということである。

 顕著な例を1つ取り上げればPHSである。もともと固定電話のコードレス版として開発され、端末と回線を分離し、インセンティブ型のビジネスモデルを否定してきたはずなのに、いざ商用化されると携帯電話の1つとして泥沼の競争に巻き込まれ、結果はご存知の通りだ。

 市場でもともとのPHSのコンセプトでは戦えず、そのまま突き進んでいったらもっと悲惨な結果に終わったという意見もあるかも知れない。しかし、それは誰にも分からないし、そこが本稿の論点ではない。

 事実は、携帯電話の土俵に引き込まれ、次々に投げ飛ばされていったということである。

 モバイル&ワイヤレス市場で絶対的な地位にある携帯電話の存在は、他の競合サービスを育ちにくくしているという負の側面かも知れない。

 そして、その流れで先日のニュースで気になったのが、モバイルWiMAXのUQコミュニケーションズが年間契約プランを条件に月額料金(3,380円)を引き下げる新料金プラン「UQ Flat 年間パスポート」を導入すると発表したことである。

 モバイルWiMAXのビジネスモデル上の特徴の1つは、「契約期間の縛りがない」という点にあったはずだ。今回、その‘禁じ手’を解禁してまで携帯電話で主流となっている契約期間で縛るカタチに近寄ってきたことにどういった狙いがあるのか、色々と想いを巡らす。

 健全な市場が続くためには健全な競争相手が必要だが、今となっては携帯電話はあまりに突出しており、その他の競合サービスが生存できる領域が少なくなっていることは間違いない。

 しかし、携帯電話への『同質化』はかつてPHSがそうだったように純増数など一時的な効果をもたすらすものの、長期スパーンで見ると、投与の仕方によっては産業そのものの根幹を揺るがす劇薬になる可能性があることも認識すべきではないだろうか。

2010年11月16日火曜日

Column:携帯キャリアの次の“姿”考察

 スマートフォン時代を迎え、これまで強弱の違いこそあれガチガチの垂直統合モデルで突き進んできた携帯キャリアのビジネスモデルが、次の『姿』を模索しているように見える。

 それを一言で表すなら「オープン型の垂直統合モデル」だろうか。

 そもそも日本の携帯キャリアは、通信インフラだけでなく、端末、サービス、プラットフォーム、そして流通を自ら一気通貫で手がけることで、独自の進化を遂げてきた。

 そうした生態系は、通信サービスと端末レイヤーが分離されていることの多い海外のケースと比較すると非常にユニークで、ガラパゴスと揶揄され、技術力がありながら海外市場で失敗続きの国内端末ベンダーの元凶ともされてきた。

 しかし、こと携帯キャリアというアングルから見る限り、世界的にも最も成功した収益モデルだったのではないかと思う。このカタチが携帯スタート時から導入されたことで、端末代をイセンティブで負担することが可能となり、利用者のイニシャルコストを軽減され、結果、加入者が一気に拡大していった。そして、端末とサービスを一体化して提供することでARPUの最大化を図ることが可能となった。

 通信サービスと端末が分離されていたら、こうはいかない。

 もっとも、これが深く、そして長く続いてきたことが海外からの国内携帯市場への参入を阻む防波堤となってきたことも事実である。

 時代は変わり、市場の成熟化が加速するなか、MNPの導入や端末と回線の分離販売、スマートフォンの台頭など、新たに市場環境を変化させる大波が次々と携帯キャリアの垂直統合モデルに襲いかかり揺さぶりをかけている。

 KDDIとサンシャイン牧場との提携やドコモのツイッターのダイレクトメールなどの到着をiコンシェルで通知するtwiコンシェルやスマートフォン向けにiモードメールのやり取りができるSPモードなど、プラットフォームを自らグリップしながら必要に応じてAPIを外部から叩ける機能を開放し、利便性を高めていくというやり方は、まさに携帯キャリアの次の姿を予感させる。

2010年11月14日日曜日

Research Note:通信業界で起きる中国脅威論

 AM:ある機器ベンダーとの定例ミーティングにて。

 世界を席巻する中国パワー。ことは通信市場においても同じである。

 成長著しい新興国を中心に携帯電話向けインフラ市場は言うに及ばず、携帯端末では今やグローバル端末ベンダーの一角を占めるポジションにまで急上昇してきている。

 国内マーケットにおいても、インフラではHUWEIがイーモバイルに、そしてソフトバンクには実験用だがLTE向けに機器を提供し、UQCが提供しているモバイルWiMAX向けではZTEかそれぞれ導入を果たしている。

 また、端末では流行っているWi-Fiルータやデータ通信カードのほか、最近ではスマートフォンにまてウィングを広げてきている。

 これまで、中国企業は日本に参入を果たしたものの、イーモバイルなど新興キャリアが主要顧客で、そういう意味ではまだ亜流の存在でしかなかった。

 しかし、今年に入り端末の一部とは言え国内通信業界の本流であるドコモとKDDIで端末が採用されたという事実は注目に値する。

 ところで、関係者に話しを聞くと、中国企業の商談スタイルはユニークらしい。日本では機器ベンダーはキャリアに採用してもらう為に、立場的には下手になり商談を進めていく。しかし、中国企業は「何故、こんな優秀な製品を購入しないのか」というスタンスで臨むのだという。そして、できる見込みがないことでも平気で「やれます」と返事するものだから、中国企業の日本人スタッフは慌てるケースが多いという。

 中国企業の機器や端末を採用したキャリアの担当によると、品質に対する考え方が全然違うことから国内企業と比べてやり取りは倍以上の苦労を強いられるとするものの、着実に日本へ根を張ろうとしている。

 最近、インドや米国では中国脅威論のなか、通信機器購入に際し政府からキャリアへ中国企業の製品を採用しないよう働きかけがなされているとされる。

 国家のライフラインとして位置づけられる通信サービスだけに、導入にあたってはコストだけでなく、国家防衛や機密保持の観点も大切になるということだろう。

 いずれにしても2011年以降、世界そして国内通信市場において中国通信企業の存在感が増すことだけは間違いなさそうだ。

2010年11月11日木曜日

Column:モバイルの世代交代の呼称を巡る混乱

 3Gから3.5G、そして3.9G、4Gへとモバイル技術の世代交代が目まぐるしい勢いで進んでいる。バージョンがアップすることで、通信速度が高速化され、先進的なサービスを享受できるようになる。

 現在、日本では3GであるW-CDMAとCDMA2000技術をベースとした拡張システムが導入され、今年12からはドコモが3.9Gと呼ばれる「LTE」の商用化に踏み出す。

 こうした呼称について、米国では全国レベルのサービスを提供している携帯キャリア4社の1角であるT-Mobileが"3G"の「HSPA+」技術を「全米最大の4Gカバーエリア」と表現したことをライバル各社が非難する騒ぎとなっている。

 もともとT-Mobileは、iPhoneで加入者獲得に成功しているAT&Tの弱点である貧弱な通信ネットワークを揶揄する意味もこめてHSPA+サービスを「4G並みの速度」と表現してきたが、今回は明確に「4Gサービス」とアピールしているのだ。

 こうしたなか、実はもう1社米国には4Gを標榜しているサービスがある。クリアワイヤとスプリント・ネクステルが提供している「WiMAX」だ。もともと同事業はスプリント・ネクステルが「XOHM」という名称で展開していたものの、資金難から2008年WiMAX専業サービス事業者のClearwireへと移管し、更にはインテルやケーブル会社など新たな株主から資金調達する形で再出発が図られた。しかし、早くも今月に再び資金難から、従業員の15%を削減するリストラ策を発表するなど、先行き不透明となっている。

 対して日本では「LTE」は3.9Gだが、同レベルのスピードを発揮するイー・モバイルやソフトバンクの「DC―HSDPA」を同じように3.9Gや4Gと表現する向きはあまりないように思う。

 3.9Gや4Gといった呼称は、「スピード」だけではなく、より広い「技術革新」を指すものという共通認識の差なのかも知れない。

2010年11月9日火曜日

Column:「ストップ・ザ・iPhone」で迎える秋冬商戦

 携帯3社の秋冬端末が出揃った8日、TCAより10月末の携帯電話・PHS契約数が発表された。

 純増競争ではソフトバンクモバイルが2位に5倍以上の大差をつけ、7カ月連続の首位を獲得した。

 ソフトバンクの純増数は32万4200件、2位のイー・モバイルは6万800件、KDDI(au)は5万8400件で、最下位はNTTドコモの5万7700件だった。また、モバイルWiMAXを提供しているUQコミュニケーションズの純増数は3万6200件で、会社更生手続き中のウィルコムのPHSは4万1900件の純減だった。

 ソフトバンクでは相変わらず「iPhone」が好調で、2位のイー・モバイルはWiFiルータが顧客獲得に貢献した。それに対してドコモは「GALAXY S」、KDDIは「IS03」という戦略商品を投入するも、実際の発売時期は11月からと10月の純増にはほとんど寄与しなかったことが響いた格好だ。

 MNP競争ではソフトバンクが8万8000件の転入超過(プラス)となる一方、ドコモが5万2500件、KDDIが3万4800件、イー・モバイルが900件の転出超過(マイナス)となった。

 10月の端末タイプ別の動向(独自推計)としては以下の通り。
◎ソフトバンク-純増の7割弱をスマホ&フィーチャーフォンが占め、約2割を通信モジュール系となっている。
◎イー・モバイル-引き続きスマホ&フィーチャーフォンタイプの減少が続くなかで、WiFiルータを含む通信カードとプリペイドが純増を押し上げている。
◎KDDI-従来のフィーチャーフォンタイプの純増が減少傾向にあるなかで、通信カード&通信モジュールがコンスタントに数字を獲得している。
◎ドコモ-スマホ&フィーチャーフォンタイプが純増の半分以上を占める一方で、これまで同社の純増を牽引してきた通信カード系が急減。

 携帯キャリア別の地域別動向としては以下の通り。
◎ソフトバンク-純増数の内訳:首都圏59%、関西15%、東海10%、他15%
◎KDDI   -純増数の内訳:首都圏46%、関西14%、東海 9%、他31%
◎ドコモ   -純増数の内訳:首都圏66%、関西 7%、東海 -%、他27%
 *ドコモ東海エリアについては、今回200回線の純減だった。

 今年の秋冬商戦では、3社で70機種以上(ドコモ28機種/KDDI23機種/ソフトバンク24機種)の新端末が投入され、顧客獲得競争を繰り広げることとなる。

 新端末発表で先行したKDDIとソフトバンクがAndroid新機種を中心に据えたのに対し、ドコモはスマートフォン(AndroidおよびBlackBerry)、iモード端末(=フィーチャーフォン)、LTEサービスの3分野をバランスよく配分しながら、他社にない独自端末を数多く取り揃えてきた。

 更にドコモの端末発売予定を見ていると2011年3月に確定しているものは1機種もないことから、時期を見て隠し玉の投入もありそうだ。

 注目を集めるスマートフォンについては、これまでのような高機能型だけでなく海外の廉価版も投入されてくるあたり、今後はフィーチャーフォンとスマートフォンの融合が加速していくと予感させる。

 「ストップ・ザ・iPhone」で一斉に動き出した秋冬商戦の熱い戦いがはじまった。

2010年11月5日金曜日

Column:下り最大42Mpsの「EMOBILE G4」を発表したイー・モバイルの戦略メモ

 データ通信の高速化でライバルをリードしてきたイー・モバイルが、11月19日より下り最大42Mps/上り最大5.8MbpsのDC-HSDPAサービス「EMOBILE G4」を開始すると発表した。

 通信料金は現行の毎秒21Mbpsのサービスと同じに据え置いた。月額固定の「G4データプラン」で2年の継続利用を前提とした「ベーシック(にねん得割)」が月額5,280円など。

 当初は関東、東海、関西、北海道、九州の一部主要都市での提供となるが、その後エリアを広げ、2011年3月末には約40~50%の人口カバー率を目指すとしている。「EMOBILE G4」以外のエリアでは、既存のHSPA+などとバックコンパチで対応可能となっている。

 2007年3月にデータ通信専業型キャリアとして3.6Mbpsのデータ定額制を武器に参入を果たしたイー・モバイルは、常にライバルを上回るデータ通信サービスをいち早く導入(2007年12月に7.2Mbps、2009年7月に21MbpsのHSPA+)することで、弱点であるエリア整備をカバーし戦ってきた。

 PCとデータ通信カードをセットにした100円PCや、PCやPDA、携帯型ゲーム機などを無線LAN経由でインターネットに接続できるモバイルルーター「Pocket WiFi」などのヒットで、開業1年目は約100万、そして2年目は約95万の純増数を獲得し、累積加入者数は2010年9月末時点で274万件まで増加。

 開業当初、調達していた資金から現在の加入者数を換算すると加入者一人あたり約3万円の獲得コストと、効率性は決して悪くないものの、端末代を肩代わりし通信料金で回収するモデルは、資金力に限界のあるベンチャー企業にとって楽な仕組みではない。その点、端末を割賦にし債権として早期に現金化できるソフトバンクの開発したモデルは秀逸である。

 そうした背景もあり、今年親会社であるイー・アクセスとの合併に踏み切ったと見られるが、とわ言え、まだ300万レベルの加入者数しか持たない携帯キャリアという言い方もできる。

 12月にはドコモがLTEの商用化を計画しているが、W-CDMAの延長技術であるDC-HSDPAで対抗するあたり、性能がLTEと変わらず、更にはその先の高速化技術も開発されてきているDC-HSDPAの方がコスト面でも十分対抗できるとする読みがあるのではないかと思われる。

 今回、サプライズでAndroid搭載のスマートフォン「HTC Aria」投入が発表されたものの、コンテンツやプラットフォームも手がける総花的な携帯キャリアを目指すのか、それとも堅牢な通信ネットワークを提供する土管屋に徹するのか、その決断の時期もそう遠くないように思える。

2010年11月2日火曜日

Reseach Nopte:『アップルの独自SIM開発報道』で改めて注目される端末ベンダーの強さの意味

 PM:世界の移動体通信産業を調査している研究者との意見交換にて。
 
 米IT系有力ブログのひとつ「GigaOM」が、欧州市場向けにiPhone用の独自SIMカードの開発をオランダのカードメーカー、ゲマルト(Gemalto)と共同で進めていると伝えた。

 これががあれば、顧客はアップルから店舗やWeb経由でiPhoneを購入して、購入時に携帯キャリアを選択できるようになる。つまり、通常は携帯キャリアが行うアクティベートをApp Storeからのダウンロードでできるようになるのだ。

 独自SIMには、アップグレード可能なフラッシュコンポーネントとROMエリアを備えたチップが埋め込まれている。ROMエリアには、キャリア関連の情報を除いて、ITやネットワークセキュリティに関してGemaltoが提供するあらゆるデータが含まれ、同社がは、キャリアのネットワーク上でサービスと電話番号を供給できるバックエンドインフラを提供する。

 世界の通信トレンドの1つが、iPhoneの登場以降、NokiaのMeeGo、Hewlett-PackardはwebOS、そしてSamsungはBadaというように、端末とソフトの垂直統合化にある。そうしたなかで、今回の報道の真偽のほどは別にして、仮に事実ならその流れを更に一歩進めることとなりそうだ。

 翻って日本ではどうか。海外の携帯キャリアと比較し、プラットフォームやコンテンツまで手がけ「ガラパゴス」と呼ばれるほど、国内端末ベンダーの国際競争力に影響を及ぼすほど、垂直統合化によるエコシステムを構築してきたことは周知の事実だろう。

 その観点から、実はこうしたグローバル端末ベンダーと相性がいいのは、周波数帯の問題はあるにせよ、上位レイヤーを持たないイー・モバイルだったりするのではないかと思ったりもするのだが、言いすぎだろうか。

 先日、移動体通信のグローバル市場を調査している外国の研究者と意見交換をしたのだが、その席で「何故、部品技術であれだけ優れている日本の端末ベンダーは、海外で活躍できないのか?」と聞かれ、答えに窮した。

 その方によると、国際市場で戦うには、いい商品や部品を作ること以上に誰か(携帯キャリア)におもねるのでなく、自ら道を切り開く‘強さ’を持っていることが絶対条件になるとしている。
 
 今一度、‘強さ’の意味を考えさせられた。