2014年3月6日木曜日

キャッシュバック戦争に見るモバイルキャリアの本能

 スマートフォンの需要一巡が、熾烈な販売競争を招いている。新入学や就職シーズンの年度末を前に、各社のキャッシュバック競争はヒートアップする一方だ。

 スマホ失速の背景には端末の進化が一定のレベルとなり、目新しさがなくなったこと。そして、昨年末よりドコモがiPhone取り扱いを本格化し、品揃えで違いでがなくなった結果、端末の値引き合戦が激化した側面がある。

 今年1月にはドコモがiPhoneのMNP(Mobile Number Portability)1台5万円前後だったキャッシュバックは、最近では8万円程度まで引き上げられ、それに他社も追随するという構図が続いている。MNP競争で流出が常態化しているドコモとしては、完全な止血は無理としても、流出ペースをスローダウンさせたいというのが本音だろう。また、KDDIとSBMとしては、顧客流動化が純増拡大の必要条件である以上、端末販売減少はあってはならないシナリオである。

 業界全体では年間1兆円近くにもなるとされるこうした販売手数料が、モバイルキャリア各社の営業利益に一定のマイナス要因として作用することは間違いないが、それでも他の産業と比較すると依然として高収益体質であることに変わりは無い。あくまでモバイルキャリアの戦いの場は新規市場という限定された領域で繰り広げられており、既存顧客向けは不思議なほど無風状態となっているのだ。

 問題は各社が新規顧客の獲得を優先する一方で、既存利用者の通話料などの引き下げについては見送っており、この差が利用者に極端な不平等感をもたらしているのではないかということだ。2007年にモバイルビジネス研究会は端末代金と通信料金を分離する現在の制度へ移行を促したが、程度の問題で言えば、その前の方がまだましだったのではないか。

 そんな事情もあり、役所が現在のキャッシュバック戦争に介入するということは難しいのかも知れない。つまり、最大の商戦期を前にチキンレースを止めるものはいないということになる。

 フィーチャーフォンからスマホになっても、そして3GからLTEになっても、『新規顧客』を追い続けるモバイルキャリアの本能は、今も昔も変わっていない。

執筆:天野浩徳

2014年2月18日火曜日

NTTドコモの純増トップのカラクリ考

1.純増トップ獲得

2013年12月の純増競争で、NTTドコモが2011年12月以来の純増シェア1位の座に返り咲いた。各社の純増数は、NTTドコモが27万9,100件、SBM(ソフトバンクモバイル)が22万4,300件、KDDIが22万2,600件。MNPの利用件数では、ドコモが5万1,000件の転出超過(マイナス)となる一方、au(KDDI)が4万3,300件、ソフトバンクモバイルが9,400件の転入超過(プラス)になった。

シェアトップとなった理由について、ドコモは、「iPhone 5s/5cの在庫を潤沢に確保できたことやAndroidスマートフォンの新機種が出揃ったこと、そしてキャンペーンを実施したことで、新規契約が伸びた」点を挙げている。

前回トップとなった2011年12月と言えば、ソニーの携帯ゲーム機が発売された影響で一時的に純増数が増加するという特殊要因が理由だったが、先のコメントを聞く限り、今回は隠し技なしという説明だ。

しかし、本当にそうなのだろうか?ちょっと気になって電気通信事業者協会(TCA)のデータを眺めてみると、大本営発表とは異なる別の理由が透けて見える。

2.本当の理由はMVNO!?

今年1月10日に発表されたTCAの2013年12月の携帯電話事業者別契約者数によれば、NTTドコモは約28万の純増のうち、実に85%程度の24万を関東甲信越で獲得していることが分かる。通常、同エリアの純増比率が半分程度であることを考えれば、12月は異常に高いと言えるだろう。

また、iPhoneの販売が好調ならば、TCAにあるドコモ(iモード/spモード)の2013年12月に契約数が1万3,600件の純減というのも腑に落ちない。iPhoneの契約には、「SPモード」の契約が必須だからだ。

以上の点から推測できることは、純増の最大の要因はMVNOの数字が大きく貢献しているのではないかということだ。ドコモのMVNOの純増は、関東甲信越の数字としてカウントされていることは、広く知られている。MVNOであれば、SPモードの純増にも寄与しない。

3.MVNOの貢献度

仮にMVNOが純増の大きく貢献したという仮設に立ったとき、次の関心事はドコモの純増28万のうち、どの程度がMVNOで占められるのかということである。当然だが、それについての確固たる情報はないわけだが、これまでの純増データから推計すれば、半分程度はMVNOではないかと推測される。

ドコモには、格安SIMと呼ばれるMVNOが多数存在しており、最近では音声サービスを提供するところも出始めてきている。ドコモとしては、決して喜んで提供しているわけではないだろうが、今後の純増競争という観点から考えるとデメリットばかりではなさそうだ。

尚、2013年通年での純増数は、ドコモが119万3,500件、KDDIが279万9,600件、SBMが343万7,500件になった。また、年間MNPでは、KDDIが96万2,100件、SBMはソフトバンクは46万8,200件の転入超過だったのに対し、ドコモは143万4,000件の転出超過であった。

執筆:天野浩徳

2014年1月17日金曜日

PHSの低コストから考える携帯電話の良識

1.コスト競争力の強さが復活の原動力となったウィルコム
今年11月からウィルコムがMNPの仲間いりとなり、携帯電話利用者との間で番号を変えずPHSを利用したり、逆にPHSから携帯への移行が可能となった。

PHSは日本発の技術でありながら、携帯電話との競争に敗れ、長く苦難の歴史を辿ってきた。当時、携帯電話との競合を避けるために、PHS会社はデータ通信サービスの強化や音声定額などで挽回を目指すも、ことごとく携帯電話のキャッチアップにあい、なかなかレッドオーシャンから抜け出すことができなかった。

そして、いつの間にかPHS会社のなかで残っているのはウィルコムだけとなり、それとて窮地に追い込まれており、親会社だったKDDIが見離す中、救済したのがソフトバンクだった。

ソフトバンク傘下に入ったウィルコムは、一定の条件付きながらも他社への電話まで含めた音声定額サービス「誰でも定額」を導入したことが功を奏し、加入者数は再成長基調へと反転した。

「誰でも定額」はオプションサービス(月980円)で、他社ケータイ、家・会社の電話へ、1回あたり10分以内の国内通話が無料となるが、これに月1,450円の新ウィルコム定額プランSを組み合わせることでウィルコム同士24時間通話無料。Eメールはケータイへもパソコンへも、送受信無料で利用できるようになる。

つまり。毎月2,000円あまりで話し放題、メールし放題となる訳で、携帯電話との圧倒的なコスト競争力に改めて驚かされる。

2.携帯電話の『あり方』として正しいのか?
ところで、今回ウィルコムを取り上げた理由だが、それは近い将来の携帯キャリアの姿や、本来あるべき世界のヒントが同社にあると考えるからである。

実は、ウィルコムがこうした低コストでサービスを提供できる理由は、設備投資の減価償却が終わり、最もコスト要因として大きい新規のネットワーク費用を利用者が負担する必要がないためである。意地の悪い人は、進化がない技術と揶揄するが、音声特化を掲げるウィルコムにそうした必要性はない。

ウィルコムはソフトバンク傘下になってから上場廃止したため経営情報はわからないが、このレベルでも十分に黒字となっていることは、幹部のコメントからも推察できる。

これに対して、携帯電話の料金レベルをPHS並に引き下げれば、携帯キャリアの経営が立ち行かなくなることは明らかだ。理由は、先のPHSの事情と全く逆で、ネットワークの進化が常に図られ、そのコスト分を通信料金に上乗せする必要があるからだ。

アナログからデジタル(PDC)方式へ、そして3GからLTEへ、そして今度は4Gへと無線ネットワークの技術は進化し、その都度、全国の通信ネットワークが張り替えられてきた。技術の進化によって、周波数の利用効率が向上したり、通信速度が高速化するなど、それら全てが悪いとは思っていない。

ただ、こうした絶え間ない技術のスピードは、果たして誰のためになっているのかと考えるのである。暴論との指摘を省みず、逆にPHSのようなサイクルで動いているとすれば、同じようなことができるのではないか。単純にそう思うだけなのだ。

この問題は、これまで述べてきているように携帯電話の高い通信コストを、このまま顧客が負担し続けるというのは本当に正しいのかという本質を私たちに突きつけている。更に言えば、総務省の護送船団方式によってとまで言うつもりはないが、マスコミが騒ぐような差別化をモバイルキャリアが本気でやるのであれば、本来ならば、そうしたレベルから考えないと顧客には見えないのではないと思うのである。

見えない通信サービスを提供しているだけに、そこに隠されている事情について、今一度再考する時期なのかも知れない。

執筆:天野浩徳

2014年1月6日月曜日

2015年にLTE-Aサービスを提供する予定のキャリアはどこだ?

2015年にも国内市場において、LTE-Advanced(LTE-A)の商用サービスが開始される見通しとなった。総務省が2013年11月に、電波監理審議会へ下り最大1Gbps以上を実現するLTE-Aサービスの国内導入に向けた無線設備規則などの改正案を諮問したためである。

電波監理審議会は原案通りに認める答申で、総務省は近く改正を施行し、2014年からLTE-A基地局などが整備できるようになる。ちなみにLTE-Aは3GPPで規定されたLTEの次世代移動通信規格で、LTEとの上位互換性を持っている。

法制度などによるLTE-A導入の後押しが進む中、実際のキャリアや無線機ベンダの動向はどうだろうか。

NTTドコモは11月に、LTEのマルチバンド対応屋内基地局装置と屋内アンテナを開発したと発表した。これらは2.1G/1.7G/1.5GHz帯に対応し、LTE-Aにおけるキャリアアグリケーションにも対応している。

ソフトバンクモバイルも8月に、東京都内の銀座及び池袋周辺において、3.4~3.6GHz帯を利用したLTE-A TDDの実証実験を実施した。LTE-A TDDはIMT-Advancedの無線インタフェース技術として、3GPPによって技術仕様が策定された技術である。

イー・アクセスも9月に、1.7GHz帯でのLTE実証実験において、下り291Mbpsの通信速度を記録したと発表した。同実証実験ではLTEで連続20MHz幅を利用した場合と、LTE-Aのキャリアアグリゲーションで合計20MHz幅を束ねて利用した場合で実施された。

一方、無線機ベンダは2月以降、NTTドコモがLTE-Aに対応した高密度基地局装置の開発ベンダ選定の発表が相次いだ。まずは2月21日にパナソニック システムネットワークス(PSN、当時はパナソニック モバイルコミュニケーションズ)とNSNが、続く27日にはNECが、3月1日には富士通が選定された。

PSN/NSNは複数年契約の下、2015年度の開発完了を目指し、LTE-Aの要件に適合した大容量基地局をNTTドコモに提供する計画になっている。さらにスモールセル導入に用いる光張出し無線装置(RRH:Remote Radio Head)も提供する。

NECはNTTドコモの高度化C-RAN(Centralized Radio Access Network)アーキテクチャ」に、高密度基地局装置を対応させる。また、スモールセル向け光張出し無線装置(SRE:low power Small optical remote Radio Equipment)の開発ベンダにも選定されている。

キャリア、無線機ベンダ各社ともにLTE-Aの導入に向けた取り組みが進む中、実際のLTE-Aサービスの提供はどのキャリアが早いだろうか。

採用している無線機の状況をみると、海外ベンダ製のKDDI(au)やソフトバンクモバイルはLTE-Aへのロードマップも盛り込まれ、いち早いサービス提供が可能な声が多い。LTEサービスの高速化状況からはNTTドコモやKDDI(au)が下り最大150Mbps化を進め、ソフトバンクモバイルは後塵を拝している。

これらを踏まえると、海外ベンダの最新無線機を採用し、LTEサービスの高速化で見劣りのするソフトバンクモバイルが起死回生の一手として、LTE-Aサービスの先行提供を考えていてもおかしくない。他キャリアに先駆けてLTE-Aサービスを提供することで一歩先を進む可能性もある。

しかし、NTTドコモもベンダ選定のアピールやR&D部門の存在、トラフィック対策などから、LTEサービスと同様に国内初のLTE-Aサービス提供を行う可能性も高い。

携帯電話サービス以外にも目を向けると、WiMAX 2+サービスの高速化が想定される。UQコミュニケーションズが2014年春に下り最大220MbpsのWiMAX 2+サービスを提供する計画である。セルラーキャリア各社は対抗サービスとして、LTE-Aサービス提供は必然ともいえる。

果たして、2015年にも開始が見込まれるLTE-Aサービスの提供は一体、どのキャリアになるのか、今から待ち遠しい。

執筆:大門太郎