2012年1月30日月曜日

Column:キャリア各社のWi-Fi展開と懸念点
現在、モバイルキャリアによるWi-Fi基地局の拡充が進んでいます。キャリア各社が積極的なWi-Fi基地局展開を進めている背景にはトラフィックの急増が考えられます。キャリアがスマートフォンの販売を推進したことにより、スマートフォンが急激に普及しました。これらスマートフォンのトラフィックがキャリア各社の携帯電話ネットワークを圧迫しています。

NTTドコモはトラフィック分散に、電波利用効率の高いLTEサービス「Xi」を前面に押し出しています。しかし、KDDI(au)とソフトバンクモバイルはWi-Fiオフロードを積極化させています。両社もいずれはLTEサービスを開始させることになりますが、現在はWi-Fiでオフロードを図っていく方針のようです。

しかし、KDDI(au)とソフトバンクモバイルのWi-Fi展開には違いがみられます。自らWi-Fi基地局を設置するとともに提携も強化するKDDI(au)に、提携を中心にWi-Fi展開を図るソフトバンクモバイルです。こうした中、2社に比べてWi-Fi展開に後れを取っているNTTドコモは、どういった展開を図るのでしょうか。

おそらくNTTドコモもソフトバンクモバイルと同様に提携をメインに押し出すものとみられます。NTTドコモはNTTグループの中核企業であり、グループのWi-Fi基地局を有効利用することで早期的なWi-Fi展開を図っていくことでしょう。NTTグループにはNTT東日本やNTT西日本、NTTコミュニケーションズ、NTTブロードバンドプラットフォームといった国内でも有数のWi-Fiキャリアがあります。これら提携することにより、2012年度上期までに30,000局、将来的に10万局へと拡大させていく計画とみられます。

ただ、Wi-Fi展開には気になる点があります。すでに都心ではさまざまな公衆Wi-Fiサービスが提供されています。そのため新たにWi-Fi基地局を設置するにはWi-Fi電波の干渉回避や出力調整などが重要となります。

こうした点を怠ってしまうと、有用な固定ネットワークが有効利用できないばかりでなく、ユーザにもWi-Fiに対する不信感を与えることになりそうです。その結果、ユーザにWi-Fiは使えないとの印象を与え、携帯電話ネットワークの利用にとどまってしまうということにもなりかねません。ぜひ、キャリア各社には、こうした点に注意を払ってWi-Fi展開を図って欲しいものです。

キャリアにおけるWi-Fiオフロードのメリット・デメリット
メリット :自社ネットワークの負担軽減
メリット :基地局設置よりも安価
デメリット:ユーザがWi-Fi網に移行すると、トラフィックコントロール不可

ユーザにおけるWi-Fi利用のメリット・デメリット
メリット :3Gサービスよりも高速
デメリット:エリアが狭い
デメリット:利用に手間がかかる(Wi-Fiに簡易接続可能なソフトの提供で解消)

執筆:大門太郎

関連資料
「2015年度における携帯電話市場の動向と予測」
~キャリアの視点から2015年度の携帯電話市場を総合的に分析~
http://www.mca.co.jp/pay_contents/FormMail/forecast2015.html

「携帯電話基地局市場及び周辺部材市場の現状と将来予測」
~基地局市場をキャリア・メーカー・エンジニアリング会社等多角的な視点からトータルに分析~
http://www.mca.co.jp/pay_contents/FormMail/mobileBasement&PartsMarket2011.html

モバイル-IT調査レポート「IT Forcaste Report」
http://www.mca.co.jp/ifr/top.htm/

2012年1月23日月曜日

Column:潜在的なニーズが存在する低速・低料金プラン
イオンが2011年6月から販売を開始した月額980円のデータ通信専用SIMカード「b-mobileSIM」が好調なようです。当初は14店舗の試験販売でしたが、11月までに265店舗へ拡大したことにより、月間5,000~6,000枚の勢いで売れているといわれています。

b-mobileSIMのデータ通信速度は下り100kbpsとなり、動画ダウンロードなどには不向きではありますが、メールやネット閲覧には十分利用できる速度とされています。

現在、下り最大37.5MbpsのLTEサービス「Xi」を推進するNTTドコモも、低速でも低料金であれば、こうしたプランに興味を示す層があることを再認識したのかもしれません。そのためNTTドコモも2012年3月から、月額1,380円の下り128kbpsプランの提供を開始するに至ったのでしょう。

しかし、現状のb-mobileSIMは月間6,000枚の販売実績であり、単純に年間70,000枚の規模に過ぎません。決して、大きいとはいえない市場ではありますが、NTTドコモが参入する理由はどこにあるのでしょうか。とにかく、囲い込み優先が考えられます。小なりといえども、他キャリアにユーザを奪われないよう追随した可能性もあります。

また、本来、低速・低料金プランが好調な背景には、高止まりしている大手キャリアの料金プランに対するユーザの抵抗が考えられます。こうした状況を放置していると、将来的に通信料値下げにまで拡大する恐れもあります。そのためNTTドコモも追随することにより、値下げをアピールし、本格的な通信料値下げを先延ばしにする施策ともみえます。

NTTドコモが追随することにより、さらに低速・低料金プランは注目を集めることになるでしょう。そうなった場合、他キャリアも参入せざるを得ず、ますます低速・低料金プランが注目されるに違いありません。

データ通信専用SIM
キャリア名:日本通信   NTTドコモ
開始時期 :2011年6月   2012年3月
サービス名:b-mobileSIM  未定
利用料  :月額980円   月額1,380円
通信速度 :下り100kbps  下り128kbps

執筆:大門太郎

関連資料
「2015年度における携帯電話市場の動向と予測」
~キャリアの視点から2015年度の携帯電話市場を総合的に分析~
http://www.mca.co.jp/pay_contents/FormMail/forecast2015.html

「携帯電話基地局市場及び周辺部材市場の現状と将来予測」~基地局市場をキャリア・メーカー・エンジニアリング会社等多角的な視点から トータルに分析~http://www.mca.co.jp/pay_contents/FormMail/mobileBasement&PartsMarket2011.html

モバイル-IT調査レポート「IT Forcaste Report」
http://www.mca.co.jp/ifr/top.htm/

2012年1月17日火曜日

Reserch Note:どうなる? 700MHz帯の割当先
総務省の携帯電話等高度化委員会 700/900MHz帯移動通信システム作業班が2011年12月に第13回目の会合を開催しました。第13回目の会合では1年以上にわたって検討が進められてきた700MHz帯の干渉検討結果がまとまり、報告書案が示されています。報告書案によれば、700MHz帯は30MHz幅×2が確保できる見通しだといいます。

弊社資料「携帯電話基地局市場及び周辺部材市場の現状と将来予測」では、NTTドコモとKDDI(au)がそれぞれ700MHz帯の15MHz幅×2を獲得する方向で将来予測を行いました。一方、ソフトバンクモバイルは900MHz帯、イー・アクセス(イー・モバイル)が1.7GHz帯を獲得する予測になっています。

ただ、700MHz帯の30MHz幅×2が15MHz幅×2ずつ2社に割り当てられるのか、10MHz幅×2ずつ3社に割り当てられるのかによっては予測に変化が生じそうです。3社であれば、イー・アクセス(イー・モバイル)にも700MHz帯獲得の可能性があり、イー・アクセス(イー・モバイル)にとっては念願の新規周波数帯となります。

スマートフォンの急増により、トラヒックが逼迫している現在、すべてのキャリアがより有利な条件で新規周波数帯を欲しています。総務省も割当先キャリアには非常に頭を悩ませているものと考えられますが、ここは既存の携帯電話ユーザを最優先して考えて欲しいものです。

しかし、ユーザ数で考慮すると、規模の小さいイー・アクセス(イー・モバイル)が数千万規模のNTTドコモとKDDI(au)と同様の周波数帯幅を獲得するのは難しいかもしれません。そのため700MHz帯はNTTドコモとKDDI(au)が15MHz幅×2ずつ割り当てられ、イー・アクセス(イー・モバイル)は1.7GHz帯の5MHz幅×2を獲得するのが妥当とみています。

なお、700MHz帯の利用開始時期は2013年夏からになりますが、割当時期は2012年7月に行われる見通しになっています。

700MHz帯の再編
TV放送     :~710MHz
ガードバンド  :710M~718MHz
携帯電話(上り):718M~748MHz
ガードバンド  :748M~755MHz
ITS       :755M~765MHz

MCAによる新規周波数帯割当予想
NTTドコモ      :合計85MHz幅(<700M>/800M/900M/1.5G/1.7G/2GHz帯)
KDDI(au)     :合計60MHz幅(<700M>/800M/900M/1.5G/2GHz帯)
ソフトバンクモバイル:合計45MHz幅(<900M>/1.5G/2GHz帯)
イー・アクセス(イー・モバイル)
          :合計20MHz幅(1.7G帯<5MHz幅×2>)
※< >は新規割当予想分。

執筆:大門太郎

関連資料
「2015年度における携帯電話市場の動向と予測」
~キャリアの視点から2015年度の携帯電話市場を総合的に分析~
http://www.mca.co.jp/pay_contents/FormMail/forecast2015.html

「携帯電話基地局市場及び周辺部材市場の現状と将来予測」
~基地局市場をキャリア・メーカー・エンジニアリング会社等多角的な視点からトータルに分析~
http://www.mca.co.jp/pay_contents/FormMail/mobileBasement&PartsMarket2011.html

モバイル-IT調査レポート「IT Forcaste Report」
http://www.mca.co.jp/ifr/top.htm/

2012年1月5日木曜日

Column:ネットワーク逼迫の特効薬
現在、モバイルキャリア各社は急増するトラヒックに対し、さまざまな施策を実施しています。各社の施策を大まかにまとめると、(1)ネットワーク容量の拡大・効率化、(2)トラヒックコントロール、(3)データオフロードとなります。

NTTドコモはLTEサービス「Xi(クロッシィ)」への移行や新たな周波数帯の獲得、小ゾーン・セクタ細分化といったネットワーク容量の拡大・効率化、ヘビーユーザに対する通信速度制御、2012年10月開始予定のXiの速度制限・段階型料金プランのトラヒックコントロール、Wi-Fiサービス「Mzone」やフェムトセル、宅内Wi-Fiの活用といったデータオフロードを推進中です。

KDDI(au)が推進している「3M戦略」の“M”には、さまざまなコンテンツやサービスを利用できるマルチユース、いつでもどこでも最適なネットワークを利用可能なマルチネットワーク、好きなデバイスで利用できるマルチデバイスの“M”が込められています。ユーザはサービスやネットワーク、デバイスに制限されず、ユビキタスな利用が可能になります。

ソフトバンクモバイルは基地局の小セル化や新たな周波数帯の獲得などネットワーク容量の拡大・効率化、ヘビーユーザに対する通信速度制御といったトラヒックコントロール、駅の周りにWi-Fiを広めるデータオフロードを実施しています。

これまで各社はフィーチャーフォンを重点に置いた端末戦略を推進してきましたが、現在ではスマートフォンへのシフトを進めています。スマートフォンのトラヒックはフィーチャーフォンの10~20倍とされ、確かに各社が積極的に行うネットワーク容量の拡大・効率化とデータオフロードは重要であると考えられます。また、これらの対応はキャリアによる設備投資で賄うことが可能です。

ただ、ソフトバンクモバイルが嘆くように、いくらネットワーク容量を拡大したとしても抜本的な解決には至らず、いたちごっこの様相となります。本来、トラヒック逼迫の要因はユーザ側にあるため、ネットワーク容量の拡大やオフロード先の拡充よりも、いかにヘビーユーザのトラヒックコントロールを行っていくかが重要ではないのでしょうか。

しかし、トラヒックコントロールを行うことはユーザへ負担も伴います。そのため各社は重点的にネットワーク容量の拡大やオフロード先の拡充を図っているのでしょう。それでも将来的なトラヒック逼迫を考えると、自社内の携帯電話ネットワークを守るため、早々にヘビーユーザのトラヒックコントロールや他キャリアへの流出が必要かもしれません。

キャリア各社におけるトラヒック増への対応策
NTTドコモ
●Xiへの移行(NW容量の拡大・効率化)
●新たな周波数帯の獲得(NW容量の拡大・効率化)
●小ゾーン化やセクタ細分化(NW容量の拡大・効率化)
●ヘビーユーザに対する通信速度制御(トラヒックコントロール)
●Xiの速度制限や段階型料金プラン(トラヒックコントロール)
●Wi-Fiやフェムトセル、宅内Wi-Fiの活用(データオフロード)

KDDI(au)
●3M戦略の推進(NW容量の拡大・効率化やデータオフロードなど)
・マルチユース(さまざまなコンテンツやサービスを利用可能)
・マルチネットワーク(いつでもどこでも最適なNWを利用可能)
・マルチデバイス(好きなデバイスで利用可能)

ソフトバンクモバイル
●基地局の小セル化(NW容量の拡大・効率化)
●新たな周波数帯の獲得(NW容量の拡大・効率化)
●ヘビーユーザに対する通信速度制御(トラヒックコントロール)
●駅の周りにWi-Fiを広める(データオフロード)

執筆:大門太郎

関連資料
「2015年度における携帯電話市場の動向と予測」
~キャリアの視点から2015年度の携帯電話市場を総合的に分析~
http://www.mca.co.jp/pay_contents/FormMail/forecast2015.html

「携帯電話基地局市場及び周辺部材市場の現状と将来予測」
~基地局市場をキャリア・メーカー・エンジニアリング会社等多角的な視点からトータルに分析~
http://www.mca.co.jp/pay_contents/FormMail/mobileBasement&PartsMarket2011.html

モバイル-IT調査レポート「IT Forcaste Report」
http://www.mca.co.jp/ifr/top.htm